先輩に乾杯!進路に迷ったときに読む、 身近な先輩へのインタビュー

イラストに、
少年の心を詰め込んで

伊藤 正道さん

■いとう・まさみち
1956年、神奈川県生まれ。1982年、本学社会科学部卒業。大阪ガス、きらら397、泉州銀行、JTBのキャラクターデザインや、広告・出版・パッケージなど幅広い分野のイラストレーションを手掛ける。主な絵本作品は『マフィーくんとジオじいさん』(小学館)、『ゆきダルムくん』(教育画劇)、『大きな古時計』(白泉社)など。本学のホームカミングデー・稲門祭(2001)のポスターも手掛けた(右下の写真で伊藤さんが手にしているのが原画。本学のシンボルが随所に描かれている)。

 今回ご登場いただく伊藤さんは、絵本のほか、北海道の代表的なお米『きらら397』のキャラクター、大阪ガスのCMキャラクターなど、幅広い分野のイラストレーションを手掛けている。そこに共通するのは、少年と犬や老人が織りなす温もりのある世界観だ。この世界観が生まれるまでの軌跡についてお伺いした。

ゆったりと流れる時間
 江ノ島電鉄の稲村ヶ崎駅を降りて徒歩5分。個性的な家が建ち並ぶ中に、伊藤さんのギャラリー「giogio factory」がある。2階にあるアトリエの大きな窓からは、稲村ヶ崎が一望できる。時には、少年時代を過ごした鎌倉まで約40分かけて散歩し、お気に入りのコーヒー店で一休み。「以前は東京にアトリエを構えていたのですが、2002年より稲村ヶ崎に移りました。東京にいたころよりじっくりと長く時間をかけて絵を描くようになりましたね」。

影響を受けた母の教え
 横浜で生まれた伊藤さんは、中学生のときに家族で鎌倉に引っ越した。都会とは違う、ゆったりと流れる時間に身を任せ、自然の中で過ごす楽しさを味わった。
 マンガを読むことも大好きだった。高校のころはマンガ雑誌『少年マガジン』を愛読し、『あしたのジョー』にのめり込んだ。いつしか、自分もマンガを描きたい、自己表現をしたいと思うようになっていった。「僕の父は“教育パパ”でしたが、逆に母は“自分がやりたいことをやれ、ただし責任は自分でとれ”という、非常に先進的な(笑)教えでした。僕は母の影響を強く受けていたため、大学進学せずに、マンガで自分の作品をつくりたいと考えたのです」。
 ある日、新聞広告を見ていると、たまたま経験不問のイラストレーターの募集を見つけた。それまでに描いたマンガ作品を持っていくと、気に入ってもらえて入社することができた。「ここで、自分はマンガよりもイラストに向いている! と確信しました。モノクロで描くよりも、豊かな色の世界を楽しむ方が自分に合っていることに気付いたんです」。

いろんな経験をした学生時代
 一年半が経ち、一通り仕事を身に付けて転職を考えていたころ、父親が病気になった。会社をやめて看病をしたが、半年後に亡くなってしまった。「遺品を整理し、父の知り合いと会って話しをするうちに、父が僕に大学へ行ってほしいという気持ちを強く持っていたことを知りました。当時、何も仕事をしていませんでしたし、大学に通いながら将来の道を考えようと決心しました」。
 イラストレーターの経験がありながら、美大は受験しなかった。「美大は学ぶ内容が想像できたので、行こうとは思いませんでした。僕には姉が二人いるのですが、下の姉が早稲田大学に通っていて、アメリカからの留学生を家に連れてきたこともあります。早稲田大学っていろんな人間関係があって面白そうだなと思ったんです」。
 そして本学社会科学部に見事合格。学費はイラストを描くアルバイトをして、全額自分で払った。“自分のことは自分で責任をとれ”という母の教えを守ったのだ。広告業界への就職も考えて、マーケティングの授業を熱心に受けた。バンド活動にも熱を入れ、早稲田祭で歌ったこともある。3年生の時には、アメリカへ一人旅をした。「学生時代にいろんな経験をしましたが、そこで気付いたのは、やっぱり自分はイラストの道に進みたいということ。そこで、仕事を得るために、卒業の年に初めての個展を開催しました」。

心からわき起こるテーマ
 個展を機に、多くの同世代のイラストレーターと出会った。そして、彼らの個展をたくさん見た。そこで、自分との決定的な違いに気付く。「僕は仕事でイラストを描き始めました。ですから、重視していたのは、どのような絵を描けば人に受けるか、仕事になるかということです。ところが、最初に学校で絵を学んだ彼らは、自分の描きたいテーマから作品を生み出していたのです」。
 その後、本格的に個展をやりたいと考え、会場を予約した。そして、仕事のことは考えず、自分の心の底をのぞいてみる。ところが自分が描きたいテーマが見つからない。自分は本当にイラストが描きたいのだろうか、と不安になる。開催日が近づいても、一枚も作品が描けない…。「もうダメだと思った時、ふっと浮かんだのが、『少年』が登場する世界観。少年のころの自分が、いろんなキャラクターと関わっていくようなイメージです。すごくしっくりきて、一気に作品を描き上げることができました」。
 個展は大成功を収め、以後、絵本や全国規模の広告の仕事が舞い込むことになった。「以前は、顧客のオーダーを形にすることが求められていて、大きな仕事だとすごくプレッシャーがありました。ところが、この個展以後は、顧客は僕が生み出す世界観を求めてくるようになりました。ですから、どんな仕事でも、イラストを描くのが本当に楽しくなりましたね」と、晴れやかな表情で語ってくれた。
 最後に、学生の皆さんへのメッセージをお聞きした。「最近、早稲田の学生が大人しいような気がします。人から言われたことを素直にやるだけではなく、自分の中からわき起こるものを大切にして、いろんなことに挑戦してください。自由にものを考えて、人生を楽しんでほしいと思います」。

中村 洋基さん


中村 洋基さん


伊藤さんのギャラリー兼アトリエ「giogio factory」。毎週土日に展覧会を開催。5月28日まで、『アンとモーリスのEnglish Study原画展』を開催
▲伊藤さんのギャラリー兼アトリエ「giogio factory」。毎週土日に展覧会を開催。5月28日まで、『アンとモーリスのEnglish Study原画展』を開催

伊藤さん作の絵本。絵だけでなくストーリーを手掛けることもある。明るい色彩が広がり、見る人をほっと和ませてくれる
▲伊藤さん作の絵本。絵だけでなくストーリーを手掛けることもある。明るい色彩が広がり、見る人をほっと和ませてくれる

2011年1月号より「ジオじいさんの日々湘南」の連載を開始した、湘南エリアのタウン誌『かまくら春秋』
▲2011年1月号より「ジオじいさんの日々湘南」の連載を開始した、湘南エリアのタウン誌『かまくら春秋』

最近はロンドンを舞台にしたイラストを創作。『マフィー & ジオ ロンドンの空』
▲最近はロンドンを舞台にしたイラストを創作。『マフィー & ジオ ロンドンの空』

 
1241号 2011年5月12日掲載