先輩に乾杯!進路に迷ったときに読む、 身近な先輩へのインタビュー

驚きと共感を生む広告を
つくり続けたい

中村 洋基さん

■なかむら・ひろき
1979年、栃木県生まれ。インタラクティブ・クリエーティブディレクター。県立足利高校卒業。1997年本学第一文学部を卒業後、(株)デジタルステージ、(株)ニッポン放送を経て、(株)電通に入社。Webの技術を中心にCM、広告のキャンペーンをプランニングするようになる。主な仕事は、ユニクロ「UNIQLO LUCKY SWITCH」、高橋酒造「SHIRO Cheers System」、東京ガス「ピピッとコンロ・東京ガスストーリー」など。国内外の広告賞受賞・審査員歴多数。著作に「Webデザインの『プロだから考えること』」(インプレスジャパン、共著)。

 今回ご登場いただく中村さんは、Webサイトに遊び心満載なバナー広告を仕掛けたり、「私のコンロに火をつけて」というセリフで話題のトレンディドラマのパロディCMを手掛けたりと、大きな話題をさらう広告コンテンツを発信し続けている。海外からも高い評価を受ける中村さんだが、現状に甘んじることなく、あっ! と驚くような新しいコンテンツを次々と発信している。

プログラミングと演劇に熱中
 中村さんは中学生のころからプログラミングに熱中していたという。当時はまだ珍しかったパソコンを親戚から譲り受けたのがきっかけで、簡単なゲームを作って、友だちとよく遊んでいたそうだ。

 もう一つ熱中していたのが演劇で、野田秀樹、三谷幸喜、そして、本学卒業の鴻上尚史といった劇作家の作品を夢中になって観ていた。本学に入学したのも「演劇をやりたい。ならば早稲田だ!」と思ったからというほどの演劇好きだ。「入学して早速劇団に入りました。そこはプロ志向で、ほかの学生演劇と比較して、かなり本格的に活動をしていましたね」。

 ところが2年生のときに演出・脚本担当者の「書けなくなった…」の一言で、あえなく劇団が解散してしまう。途方に暮れる日々かと思いきや、中村さんに新たな道が拓かれた。「劇団在籍中からさまざまな劇団のチラシ制作をしていましたが、それが縁でデジタルコンテンツ制作会社で仕事をするようになり、Flashなどのスキルも習得することができたんです。4年生の半ばごろからはフリーで活動し、Webサイトやムービーなどの制作を手掛けるようになり、この業界に入る足掛かりとなりました」。

バナー広告で数々の賞を受賞
 卒業後、電通で仕事をするようになり、やがて転機がやってきた。2003年、世界三大広告賞の一つといわれる「カンヌ国際広告祭」に参加するチャンスを得たのだ。世界各国の優れた広告作品が集う祭典。「日本の広告との決定的な違いを感じましたね。海外の優れた作品には、いかにも宣伝をしているという感じはなく、“こんな表現もあるんだ!”という新鮮な驚きに満ちあふれていながらも“あるある!”と共感ができるところがありました。広告っておもしろい! って素直に思いましたね」。この後から中村さんの広告に対する考え方が大きく変わった。

 帰国後、中村さんは多くのバナー広告を制作するようになる。その作品群は、驚きと共感のあるものばかりだ。例えば、2003年に制作したダイハツのミニバン『Tanto』のバナー。これをクリックすると、バナーに描かれたTantoのトランクが開き、そのサイトの文字や画像が全て吸い込まれ、真っさらになった画面に「こんなに積める! Tanto誕生」というキャッチが現れる。この作品は2004年、「カンヌ国際広告祭」、「クリオ賞」、「One Show」でトリプル受賞という快挙を達成した。以後、中村さんはとどまることなく数々の賞を受賞することとなる。

話題のあのCMを手掛けた
 Webの世界は常に新しいものへと変化する。次々と新たな手法が生まれては消えていく。中村さんは、次世代のWeb広告の手法に挑戦し、表現の枠を広げていった。  米焼酎『白岳しろ』のプロモーションムービーでは、TwitterやFacebookと連動した仕組みを構築し、若者がみんなで楽しく飲むというブランドイメージの浸透を目指した。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバム『マジックディスク』のキャンペーンは、“今後失われてゆくメディア、CDへの郷愁”がテーマだったことから、「好きなCDつながり」のソーシャルグラフをつくった。HONDAのハイブリッドカー『CR-Z』のプロモーションでは、mixiのニックネームにCR-Zというフレーズを入れるだけで『CR-Z』がもらえるというキャンペーンを実施。80万人以上の若者が参加し、製品の認知度向上に大きく貢献した。

 「大学時代、演劇に本気で取り組んだことが、今の仕事に活きています」と中村さんは言う。「舞台の演出をする際、いくら自分の持つイメージが素晴らしくても、人を動かすスキルがなければ演劇は成立しません。これは、広告コンテンツ制作でも、まったく同じことです」。

 そして2010年秋、東京ガスのCM『ピピッとコンロ・東京ガスストーリー』が公開された。一世を風靡(ふうび)したトレンディドラマのパロディCMである。このCMは“分岐型ドラマ”となっていて、東京ガスのWebサイトではストーリーの中に選択肢が用意され、視聴者にどちらに進むかを聞いてくる。どちらを選ぶかによってその後のストーリーが変わるという仕掛けだ。実はこの作品でアートディレクターを務めたのが中村さん。制作に関わるさまざまな人たちを見事にまとめ、多くの注目を集めるCMをつくりあげたのだ。

今だからできることを、そして
未来の可能性を追求しよう!

 「私自身、学生時代にもっと勉強しておけば良かった、と思うことがたくさんあります。例えば、英語です。海外で審査員をすることがあるのですが、ほとんど発言することができない状態なんです。学べるチャンスがあるときにもっとやっておくべきでした(笑)」。

 自分がそういう経験をしているからこそ、強調したいことがある。「学生時代は、人生で最も自由な時代です。それは何を意味するかというと、可能性を生かすのもつぶすのも自分次第だということです。皆さんが入学した時点では、無数の可能性や選択肢があります。しかし、大人になり年齢を重ねていくうちに、たくさんあった選択肢は一つ、二つと消えていくのです。自分が面白いと思う授業を受けたり、先輩と話したり、旅に出たりするなど、どんどん未来の可能性を追求してほしいと思います」。

 そう笑顔で語る中村さんは今もなお、驚きと共感を生む広告の可能性を追求し続けている。

中村 洋基さん


中村 洋基さん


中村 洋基さん


本格米焼酎『白岳しろ』のプロモーションムービー  (http://cheers-system.jp/)
▲本格米焼酎『白岳しろ』のプロモーションムービー
 (http://cheers-system.jp/

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバム  『マジックディスク』のキャンペーン  (http://www.magicdisk.jp/)
▲ASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバム
 『マジックディスク』のキャンペーン
 (http://www.magicdisk.jp/

HONDAのハイブリッドカー『CR-Z』の  プロモーション  (http://interactive-salaryman.com/pieces/oleole_e/)
▲HONDAのハイブリッドカー『CR-Z』のプロモーション
 (http://interactive-salaryman.com/pieces/oleole_e/

東京ガスのCM『東京ガスストーリー』  (http://home.tokyo-gas.co.jp/pa-cho/tvcm/tokyo-gas-story/)
▲東京ガスのCM『東京ガスストーリー』
 (http://home.tokyo-gas.co.jp/pa-cho/tvcm/tokyo-gas-story/

 
1238号 2011年1月20日掲載