わせだかいわい 

日本伝統の美を伝える
つまみかんざし博物館

世界はじめての「つまみかんざし博物館」
 高田馬場駅から徒歩3分。住宅街にひっそりとある「つまみかんざし博物館」をご存じだろうか。

 “つまみかんざし”という言葉を聞いてすぐにピンと来る人は少ないかもしれないが、誰もが一度は目にしたことがあるだろう。女性の髪を華やかに飾るもので、その多くは七五三や成人式のときに使用される。

 つまみかんざし博物館とは、博物館法で定められる正規の博物館ではなく、区内の文化財・史跡・伝統産業を担う職人の仕事場を公開する新宿歴史博物館所管の「新宿ミニ博物館」のひとつだ。

 つまみかんざしは、染色した布地を2~10㎝の正方形に裁断し、光絹である羽二重を1枚ずつピンセットで折りたたみ、のり板の上に並べて作っていく。「この作業を『つまむ』と言い、このことから『つまみかんざし』と名付けられたんです」と、石田さんはのり板に並べた布をピンセットで台紙の上に丁寧に置きながら語ってくれた。布を置く台紙を真剣に見つめる石田さんの目は、まさに「職人のまなざし」である。

 世界に10人程しかいないつまみかんざし職人。職人が少なくなると、必然的に生産数も減少し、商品が少ないと一般の人に知られる機会も激減する。「いつか世の中の人に忘れ去られてしまうんじゃないかと思って、博物館をはじめました」。ちょうど1993年に新宿区内でミニ博物館を作る計画があり、それに参加した。「大学生は年間100名ほど来ますね。たまに早大生も来ます。早大の学生さんに取材されたこともありますよ」。

小さなつまみかんざし
世界にはばたく

 日本での活動はもちろん、石田さんは世界各国でも展覧会を実施している。「中国、アメリカ、フランス、ポルトガル、トルコ、台湾、インド、シンガポール…」。開催した国や地域を聞くと、次々とその名が上がる。海外と日本の活動に大きな違いはなく、基本的には、商品を見せ、作り方を実演する。

 「かんざしを見せるときれいだと言ってくれて、実演すると驚いてくれる。それは世界でも日本でも共通した反応です。ただし国外ではかんざしが一般的ではないので、頭に大きなものをつけるということ自体に驚かれますね」。

 海外で商品を販売するには手続き・許可等の問題により、個人で行うには手間がかかり難しい。渡航費用等もすべて自費で行っているが収益はない。「景気がいいときはいいけど、今は難しい」。海外に日本の伝統工芸を伝えるのも、楽なことではない。しかし、つまみかんざしを世界に広めようとする石田さんの思いは強い。

人生の門出を彩る、日本の伝統美
 石田さんの家は祖父の代からつまみかんざし職人だった。祖父、父から伝統技能を受け継ぎ、現在は父、兄弟と親子3名で家業を継いでいる。「ひとりですべての工程をやれるのが、この仕事の良いところ。時には、自分でデザインを考え、自分で布を染め、かたちを作って、まとめて、直接お客さんに渡せることもある。思った通りに出来て、お客さんの反応を見られるときが嬉しいです」。

 博物館は今年で開業17年目を迎える。つまみかんざしは、世の中に忘れ去られることなく、今もさまざまな人たちの祝いごとを密やかに彩り続けている。


つまみかんざし職人 石田毅司さん。休みの日は近所を散歩している
▲つまみかんざし職人 石田毅司さん。休みの日は近所を散歩している

「つまみ」作業をしている。ピンセットで器用に折りたたみ、のり板に移す
▲「つまみ」作業をしている。
 ピンセットで器用に折りたたみ、のり板に移す


「ふく」作業を終えると、「組み上げ」という工程に移る。1本のかんざしを作るには何日も時間がかかる
▲「ふく」作業を終えると、「組み上げ」という工程に移る。
 1本のかんざしを作るには何日も時間がかかる


つまみかんざしは玄関口のショーケースに飾られている。これは七五三用のかんざし
▲つまみかんざしは玄関口のショーケースに飾られている。
 これは七五三用のかんざし

開館日 :
水・土曜日のみ

開館時間:
午前10:00〜
午後5:00


 
1236号 2010年12月16日掲載