先輩に乾杯!進路に迷ったときに読む、 身近な先輩へのインタビュー

人々の心の傷を回復し、癒していく

尾山 清仁さん

■おやま・せいじ
東京都出身。本学社会科学部1983年卒業。大学卒業後、東京神学校、米国のフラー神学校で学ぶ。米国でビジネスマンとして活躍した後、2005年に帰国し、聖書キリスト教会の主任牧師として活動している。「今、はまっているのは妻のキャシー」と話す愛妻家。

  今回ご登場いただくのは、聖書キリスト教会の主任牧師であり、日曜学校に集まる子どもたちから“パパ”と慕われている尾山清仁さん。無我夢中に過ごした学生時代や、現在、教会で取り組んでいるリカバリー・プログラム(心の傷を回復するプログラム)などについてお伺いした。

無我夢中で頑張ったからこそ見えてくるものがある
 もう一度、大学生に戻れるとしたら、「あそこまで真面目な学生生活は送らない」と言う尾山さん。早大生時代は、クリスチャンの学生が集うキリスト教サークルで幹事長を務める一方、サッカーで汗を流し、ボディビルで筋肉を鍛え、かつ見た目もおしゃれ、という爽やかで硬派な男を目指していた。しかも、学業成績優秀者に支給される「大隈記念奨学金」の奨学生でもあった。

 ジャーナリストに憧れ、新聞記者を志したこともある。「本はたくさん読みましたね。ルポルタージュも好きでしたし、古典の名著も無理して読んでいました。読んでいないことが恥ずかしいと思っていたんですよ。でもそれが自分を成長させる糧になったことは確かです」。

 サークルを掛け持ちし、何かと忙しい毎日だったが、授業は人一倍真面目に受けていたという。「授業では、一見つまらない講義だと思っても、先生の言うことを一言一句ノートしていました。後で読み返すと、先生が伝えたかったことがよく分かる。お陰で成績は良かったですよ」。生意気盛りを共に過ごした親友たちとは、今でも良きライバルだ。いまだに「俺のほうが上だ」と冗談を言い合えるのは、大学時代の関係があるからだという。「早稲田で出会った友人は一生の財産だと思います」。

 充実した学生時代だったが、さまざまな経験を経て、自分のことを客観的に見つめられる大人になった今、当時をふり返ってみると、過去を肯定しながらも、「頑張り過ぎだったかな」とも語る。「学生時代は誰でも、無我夢中でバランスを欠く時期。でもそうした過程を経るからこそ、見えてくるものがある。学生のうちは無我夢中でいいと思います」。

人生を変えた奥様の一言
 本学卒業後は、牧師になるために父親が校長を務めている東京神学校で学び、さらに米国・カリフォルニアのフラー神学校へ留学した。卒業後は米国で起業し、ビジネスの手腕を発揮。会社は順調に成長していった。「仕事が楽しくて仕方なかった。アメリカ中を飛び回り、家を留守にしていたので、妻のキャシーは寂しい思いをしていたと思います」。

 そして7年目の結婚記念日に、危機は訪れた。キャシーが口にしたのは「夫婦カウンセリングに行きましょう」。真剣な彼女を前に、「ノー」と言うこともできず、カウンセリングに参加。「最初は自分がいかに良い夫であるかを認めてもらおうと思っていました。しかし、そこで告げられたのは、私自身に問題があるということでした。立派な父親に自分を認めてもらいたいという切なる気持ちが、人に認めてもらいたいという焦りにつながり、ワーカホリックになっていたのです」。

 ちょうどそのころ、帰国して教会を継いでほしいと連絡が来た。「日本でも私が受けたような、心の傷を癒す助けができないだろうか。コンプレックスやアルコール中毒などに悩む人々が回復する手助けをしたい」。2005年に帰国。父の教会に米国の著名な牧師を招き、人間関係に関する講演会を開催すると1,600人もの来場者があった。「精神衛生の問題がいかに大切かを再確認しました。人々はありのままの自分を受け入れてくれる場所を探している。教会がその役割を担うことができればいいですね」。

 現在、聖書キリスト教会では、うつ病やアルコール中毒など、さまざまな心の傷を回復するリカバリー・プログラムを提供している。「教会が新しいことに取り組めるのも、父親が築いてきた信頼と土台があるから。人々が本来の人生を送れるように応援していきたい」。

早稲田の学生から世界のムーブメントを起こそう!
 日本のクリスチャンは全人口の1%にも満たない。「日本ではキリスト教牧師は開拓者。ある意味、どんくさいんですよ。そのメンタリティは在野の精神が息づく早稲田と同じかな。そこが早稲田の愛すべきところなんですけどね」。

 愛すべき後輩へのメッセージをいただいた。「世界の重要なムーブメントは学生から始まっています。今の社会は失速していますが、若者が動かないと何も始まらない。早大生が始めないと、次が続きません。自分の決めた道を思い切って全力疾走してほしいですね。そのためには自分の心に正直であることが大切。早稲田の学生なら頭が切れる分、自分に言い訳をするのが上手かもしれません。思い切って挑戦した結果の失敗は、失敗で終わりませんよ」。尾山さんも今、人生の寄り道を大きな糧に変えて、最愛のパートナーとともに、教会の新しい可能性に挑戦し続けている。

尾山 清仁さん


妻のキャシーさんと教会の前で
▲妻のキャシーさんと教会の前で


尾山 清仁さん
▲教会内にある、NPO法人「希望の車いす」の作業所の様子。ここで作られた車いすが、世界中の車いすを必要としている人々に無料で贈呈される

 
1235号 2010年12月9日掲載