研究最前線

国民生活最大の関心事! 「消費税と財政」の仕組みを知る!

国民の消費生活を大きく左右する消費税率。いまなぜ増税なのか? 税率をどこまで引き上げるのか? 国民生活最大の関心事を、本学ファイナンス研究科 渡辺裕泰先生に解説いただいた。

内田  種臣(うちだ・たねおみ)/理工学術院(基幹理工学部表現工学科)教授

渡辺 裕泰(わたなべ・ひろやす)
大学院ファイナンス研究科教授

東京大学法学部卒業、プリンストン大学大学院修了(専攻公共経済学)。大蔵省(現財務省)勤務、国税庁長官、東京大学教授等を経て2004年4月より現職、著書に「ファイナンス課税」、「国際取引の課税問題」など。


なぜ税制改革か

 先の参議院選挙の際、菅首相が消費税率を10%に引き上げると発言し、物議を醸した。なぜ、今、税制改革、消費税なのか。それは、端的に言って、日本の財政状況が非常に悪いので、ギリシャで起きた国家破綻が、日本でも起きる可能性が大だからである。
 日本の財政は1990年頃までは良好だったが、バブルが崩壊した後の「失われた20年間」※1に、景気対策のための歳出増と減税を行った結果、主要先進国では最悪の状況になった。すでにハイパーインフレ※2と大幅な円安が起きていてもおかしくない状況になっているが、日本の場合、国債の約95%を日本人が購入しているという特殊な状況にあるため、これまでに国家破綻した国々のような、外国資金の引揚げと国家破綻が生じず、ハイパーインフレにもなっていない。しかし、日本政府の長期債務の額(現在約1,000兆円)が、日本の個人貯蓄の額(1,400兆円)を食いつくす状況に近付いているため、これまでのようにのんびりはしていられなくなっている。

なぜ消費税の税率引き上げか

 経済が良くなることにより財政赤字が自然に小さくなる可能性は、残念ながらまずない。そうすると、財政赤字を小さくするためには、歳出削減か増税しかない。しかし、歳出カットだけでは大した額が出てこないことは、「事業仕分け」の結果を見ても明らかである。増税する場合、大きな額を調達できるのは、「所得税」「法人税」「消費税」しかない。日本の所得税は、国際的には中低所得者にはそう重くないが、所得税は現役世代だけに負担がかかってしまう税なので、少子高齢化時代には増税することは難しい。法人税は、今でもアメリカと並んで主要先進国で最も高く、企業の国際競争力からいっても、また、日本企業が外国に出ていかないためにも、むしろ税率をかなり引き下げる必要がある。消費税は、わが国の税率は5%と各国の中で最も低い(下表参照)。ちなみに、EUのメンバーでいるためには付加価値税(我が国の消費税に相当)の税率は15%以上であることが必要となっている。したがって、国際的にみても引き上げの余地があるし、消費税は現役世代だけでないお年寄りも等しく負担する税であるので、少子高齢化時代に適した税であるということができる。

消費税は何%上げる必要があるのか

 消費税率をいくら上げなければならないかは、財政改革の目標をどこに置くか、社会保障は税で賄うのか、社会保険料で賄うのか等により異なるので、一概には言いきれない。ただし、菅首相の言う10%までで十分ということはない。いろいろな試算をみると、EU並みまで引き上げる必要はありそうである。


※1 「失われた20年間」:バブル崩壊後からおよそ20年にわたり、経済不況と停滞に見舞われた時期。

※2 ハイパーインフレ:猛烈な勢いで進行するインフレーション。月率50%程度の上昇から、一日単位、数時間単位で貨幣価値が変わることもある。通貨の信用が著しく失われた状態。



 
1233号 2010年11月25日掲載