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『月光の夏』(講談社文庫)毛利恒之著
夢を追いかける勇気をくれる本

澤木 泰代
教育学部英語英文学科 2009年4月嘱任
専門分野:応用言語学・英語教育

 毛利恒之の『月光の夏』と出会ったのは、10年以上前、小さい頃からの夢を叶えるために一念発起して米国の大学院で博士号を取得しようと考え始めた頃だった。その時期だったからこそ、尚更この話が心に染みたに違いない。それ以来、その内容を反芻するたびに涙が止まらなくなる。この本は、実話をもとにしたドキュメンタリー・ノベルである。終戦間近のある日、音楽の道を志していた二人の若い特攻隊員が出撃前夜に佐賀県鳥栖市の鳥栖国民学校を訪れる。二人は、死ぬ前にどうしてももう一度ピアノを弾きたいと言い、学校のグランドピアノで「月光の曲」を演奏してから旅立っていく。そして、戦後その二人の消息が明らかになる…。

 爆弾を搭載した戦闘機で敵艦に体当たりすることが使命であった特攻隊員には、二十歳そこそこの若者が多く含まれたという。お国のために命を捧げるのが当たり前だった時代、この二人も、ピアニストになってリサイタルを開く、教師になって子供たちに音楽を教えるという夢や志は、心の奥底にしまい込んでおかざるを得なかったに違いない。しかし、目標がありながら、それを追いかける選択肢さえ与えられぬまま任務遂行のために飛び立たなければならなかった彼らは、どんなに無念だったことか。鳥栖国民学校で見送りの子供たちに別れを告げる二人の爽やかさ、出撃前夜の特攻隊員たちの心の葛藤が胸に響く。

 この本を読んで、夢見ることを許された戦後の時代に生きていながら、初心を貫くのはリスクを伴うからと躊躇した自分を恥じた。結果として私が夢を叶えられたのは、この二人の隊員が勇気をくれたからということになる。「短い人生悔いなく生きよ」と、背中を押してくれたのである。

月光の夏
月光の夏
著者 毛利 恒之
発行元 講談社文庫
価格 520円(税込)


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1217号 2010年5月27日号掲載