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CD『TOMMY』the Who
論理で愛を語らないために

遠矢 浩規
政治経済学術院教授
2009年4月嘱任
担当科目:国際政治経済学

 幼少期の悲劇がトラウマとなって、見ることも、聞くことも、話すこともできなくなった少年トミー。感情を表わさず「クリスマス」も理解できない息子に母親は苦悩するが、実はトミーは心の中でいつも「See me, feel me.」と呼びかけている。虐待や性的悪戯を繰り返されながらも成長したトミーは、特異な才能を開花して一転スターとなり、やがてカルト教団の教祖として君臨。しかし最後には信者たちに見捨てられ、謎のラストシーンへ…。

 この作品のテーマは正直わからない。ストーリー(歌詞)は説明不足で飛躍・破綻しているし、隙間だらけのサウンドは「未完成」のようにすら聴こえる。しかし、それゆえに多くの解釈を生み、これまで映画版やミュージカル版が製作され、商業的にも成功してきた。わからない、のだが確かに詞と旋律に琴線が反応する。最後の曲を聴き終えると「何か」を得た気になる。

 『トミー』にあるのは、社会科学とは正反対のものだ。日ごろ、私(たち)は、テーマの明確化にこだわり、論理の飛躍がないよう隙間を埋めていくことに努めている。七色に解釈できる論文など許されない。気がつくと、自分は情念ではなく論理で愛を語るような人間になってしまったのではないか、と思うこともある。そんな硬直した脳ミソへの弛緩剤として、あるいは、行き詰った研究を「やっぱり世界は理論じゃ語れねーや」と潔く忘れるために、『トミー』は時々鳴らしておきたい。

 原典のザ・フー版(1969年)を2003年リマスターで是非(CDにもサントラ版など数種あるので注意)。ザ・フーのメンバー本人やエリック・クラプトンらが出演しケン・ラッセルが監督した映画版(DVD)もオススメ。

ロック・オペラ「トミー」
商品:ロック・オペラ「トミー」
アーティスト:ザ・フー
レーヘ゛ル:ユニバーサル インターナショナル
品番:UICY-6517
価格:1,680円(税込)

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1214号 2010年5月6日号掲載