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『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』塩野七生著
歴史上の人物伝をくつがえす名著

北川 佳世子
大学院法務研究科教授
2007年4月嘱任
担当科目:刑法

 これまで読んだ中でずっと印象深く心に残っている本の一冊に、塩野七生著の『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』がある。学生時代、本屋でその書名の長さに目をとめたのが購入のきっかけだったが、悪名高きボルジア一族に対する野次馬的な好奇心も多少あった。毒薬使いの名手で政敵を排しただの、近親相姦の噂だの、彼ら一族には忌まわしいイメージがつきまとう。とりわけヴァレンティーノ公(チェーザレの指称)といえば残忍非道な人物の代名詞で、TVドラマ「レオナルド・ダ・ビンチの生涯」にも、レオナルドがチェーザレに仕えていたときに城の地下から拷問を受ける人々の悲鳴が聞こえるという一コマがあり、それが彼を象徴するシーンであった。ところが、本書を読んで、チェーザレに対するイメージが一変した。手段を選ばず殺戮に手を染める独裁的な支配者像からイタリア統一をめざす理想の君主像へと変貌し、同時に、マキャベリの君主論に対する理解も変容した。ドキュメンタリータッチの筆致が心地よく、作品は、史実と作者が創造した空想の世界が交錯しているのに、史実をたどる感覚で読者は物語に引き込まれてゆく。そこで出会うチェーザレ像は正確には作者が創作した像なのだけれど、実際もそうだったのではと感じてしまうのである。

 私が初めて本書を手にした頃とは異なり、近年では宝塚歌劇団が本書を歌劇化したり、チェーザレを主人公とする漫画も発刊されたようであるから、もしかしたらかっこいいチェーザレ像の方が(とくに若い子の間で…)通説化しているかもしれない。であっても、本書は書き出しから見事に読者をチェーザレの生きたイタリア分国時代、ルネサンスの世界に導いてくれる。ぜひ一読をお薦めしたい。


1982年
新潮社 新潮文庫
¥540(税込)


※各キャンンパス生協に
「ウィークリー薦 コーナーが設置さています」
   
1204号 2009年12月3日掲載