先輩に乾杯!進路に迷ったときに読む、 身近な先輩へのインタビュー

ひたむきに、イタリアに恋して…料理研究家

田中 玉緒さん

■たなか・たまお
東京都千代田区出身。頌栄高等学校卒業。早稲田大学第一文学部社会学専修卒業。食品関係の商社広報室に就職後、フィレンツェへの語学留学を経て、藤野真紀子氏主催の菓子教室を受講する。藤野氏の紹介により洋菓子研究家 加藤千恵氏に師事し、西洋菓子全般を学んだあと、イタリアに留学。「LA NOSTRA CUCINA」「IPCA」等でイタリア料理・イタリア菓子・パンを学ぶ。その後、自らが主催するLA CUCINA OLIVA をオープン。

 今回ご登場いただくのは、南青山で料理教室を主宰している料理研究家の田中玉緒さん。料理研究家になるまでの道のりや、長い間教室を続けることができている秘訣などをお伺いした。

イタリア、そして料理への思い
 「美術、建築、インテリア・・・中学生だったころから、イタリアの芸術が好きでした」と語ってくれた通り、田中さんの視線は当時ブームだったパリジェンヌではなく、まっすぐにイタリアに向かっていた。その熱い思いは本学入学後も変わらなかった。4年生になり、念願だったイタリア語の授業を選択する。「文法よりも、会話中心の実践的なクラスでした」。そして、その語学力はすぐに発揮された。卒業旅行で、ついに憧れのイタリアを訪れたのだ。「例えば道を尋ねるときでも、たどたどしいイタリア語ですが何とかコミュニケーションがとれました」。始めて経験するイタリアの文化と、何より忘れられないのは、おいしい食事! ずっと思い描いていたイタリアが目の前にある。2週間にわたり、田中さんはイタリアを満喫した。

 卒業後は、食に興味があったため食品関係の商社に就職。だが、残念ながら体調を崩し退職してしまう。「周囲は、頑張って働いているのにと思うと、挫折感でいっぱいになりました」。そんな中、再びイタリア語を学び始め、家族のために料理やお菓子を作った。参考にしたのは、まだ翻訳されていなかったアメリカ人の料理研究家のレシピだ。それを自分自身で訳したのだ。「ただ、レシピ通りに作ったつもりでも、大まかなアメリカ式の表記や、日本では入手できなかった材料も多くあり、うまく作れないことも多くって」。それでも毎日かかさずに作り続けた。また、イタリア史を学んでいた友人に会えたのも、ちょうどこのころだ。留学にも詳しかった彼女との出会いがきっかけとなり、漠然と考えていたイタリアへの語学留学をはたすことができたのだ。

料理研究家になるまで…
 その後、料理研究家の藤野真紀子先生が自宅で開いていた料理教室で学び始める。「センスのいい家具や美しい食器、そして華やかな藤野先生から作り出される料理。本当に素敵でした」。教室で学んだ料理は必ず家でも実践した。学んでいるうちに、徐々に夢は広がっていく。「私も、こんな風に料理を教えたいと憧れました」。しかし料理を職業とするには、さらなる技術が必要だった。「料理を失敗するにも理由がある。その失敗の原因と結果を、科学的に説明できるようにならなければと思いました」。

 そこで考えたのは、専門学校への入学だった。だが同じころ、料理研究家の加藤千恵先生がアシスタントを募集していることを知った。学校へ通うのか、アシスタントとして働くのか。その迷いが消えないまま、面接に臨み、自分の夢を打ち明けた。すると加藤先生が一言。「専門学校で学ぶ製菓の技術は、私のアシスタントを続けていれば学べます」。それが決定打となった。アシスタントとなり、料理研究家としての姿勢など、貴重なことを加藤先生から教わることができたのだ。
加藤先生のもとで2年半が経ち、再び料理を学びにミラノへ向かった。期間は3カ月。イタリア語はほぼマスターしていたため、料理学校LA NOSTRA CUCINAやIPCAではスケジュールが許す限り、料理のレッスンに参加した。併せて修行にきていた日本人コックなど多くの人から技術を教わり、貪欲に吸収していった。「3食全て、レッスンということもありました」。そうして、無我夢中の料理留学が終わった。

ついに夢の料理教室をオープン!!
 「帰国後も、しばらくアシスタントを続けるつもりでした」。だが、仕事をきっかけに知り合ったイタリアの食器会社から、料理教室オープンへの応援の提案をいただく。まだ独立には早いと思っていた田中さんを「自信をもてるのはいつになるか分からない。それなら、流れにのってやれるうちにやった方がいい」と身近な先輩も後押ししてくれた。そうして、開いた料理教室は今年で15年目をむかえる。「料理のように自分の手で創る仕事は、10年過ぎてから見えるものがある。今、それを実感しています」。

 また「生徒さんにも恵まれました」と語ってくれたように、教室では、10年以上学んでいる生徒も多い。毎月組み立てているメニューについても、「大切にしているのは、生徒の皆さんの健康です。味だけではなく栄養の面でもバランスを考えたり、無農薬の野菜を使ったりと、食材にも気を配っています」と教えてくれた。また、「おいしい食事をすると、誰でも笑顔になる。イタリア料理にも、そういった力があると思います。それをさらに伝えていきたい」。そして、その力は、田中さん自身が今まで仕事を続けてきた原動力になってきた。

 最後に、「在学中の時間のあるときに、まずは、いろんなことをやってみて、視野を広げていってほしい。料理でいえば、じゃがいもを一日中むいていれば、皮むきは誰だって上手になる。技術的な面は、いつでも教えられる。ただ、盛りつけ方といったセンスは教えられないんです。絵画や写真、映画などを含めたいろんな美しいものをみて、自然と身につけていくしかない」。試行錯誤しながらも、生徒の健康や幸せを願って料理で表現してきた田中さん。きりっとした表情で語ってくれた。

田中 玉緒さん



生徒さんからも、思わず歓声があがった「ラズベリーのムース」。とても、色が鮮やか!
▲生徒さんからも、思わず歓声があがった
「ラズベリーのムース」。とても、色が鮮やか!


夏の終わりに収穫したバジリコで作った「リゾット・アル・ペースト」
▲夏の終わりに収穫したバジリコで作った
「リゾット・アル・ペースト」。


ていねいに、話をしてくれた田中さん
ていねいに、話をしてくれた田中さん


「ヨーグルトとはちみつのムース」。ヨーグルトの酸味とはちみつの甘さでさっぱりとしたおいしさ。
▲「ヨーグルトとはちみつのムース」。
ヨーグルトの酸味とはちみつの甘さで
さっぱりとしたおいしさ。

 
1201号 2009年11月12日掲載