先輩に乾杯!進路に迷ったときに読む、 身近な先輩へのインタビュー

夢を持つこと、それを実現すること

星野 健さん

■ほしの・たけし
1994年早稲田大学大学院理工学研究科を卒業し、科学技術庁航空宇宙技術研究所(NAL)に研究官として採用される。2007年4月より宇宙航空研究開発機構(JAXA)月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)の主幹研究員として月着陸機探査機の研究開発に携わっているJAXA宇宙航空研究開発機構
【URL】http://www.jaxa.co.jp/

  2008年4月、「月から見た地球の出」の美しいハイビジョン映像がニュースで流れたのはご存知だろうか。今回の先輩、星野健さんは、この映像を発信した月探査機「かぐや(SELENE)」の後継機による月着陸探査の研究をしている。子どものころは誰もが宇宙に興味があっただろう。しかし、それがどこかで薄らいでくる。子どもたちは“夢を持つこと”が大切と考え、宇宙教育にも力をそそぐ星野さん。学生時代は人力飛行機で大空を夢見て、そして、理工学術院の勝田正文研究室から現在のJAXAへ就職。夢を忘れず、実現させた先輩を紹介したい。

鳥人間と充実した青春時代
―早稲田大学航空研究会(WASA)との出会い―

 学生時代は、鳥人間コンテストにチャレンジしている早稲田大学宇宙航空研究会(WASA)に所属し、人力飛行機を造り大空へと飛ばしていた。

 「今思えば楽しかったですね。とにかく “鳥人間”に全財産と精力をつぎ込んでいました」。飛行機を造るにもお金が200万円くらいかかって、アルバイトをしては飛行機に消えていく日々。「生活は厳しくて水道を止められた時にはトイレの水が流れなくて…『すみません!参りました』と思いました(笑)」。それでもすごく楽しかったと当時を振り返る。「人力飛行機の機体を造る我々は、毎日作業をしていましたし、パイロットには足腰鍛えるために、『九州とかから早稲田までチャリンコで帰ってきてー!』などと走らせましたね(笑)」と青春時代のエピソードを楽しそうに語ってくれた。

造って飛ばせる技術者を目指す
 初めて造った人力飛行機は291mしか飛ばなかったが、初飛行の感動を今でも忘れないという。学部3年の春休みには、アメリカでセスナ飛行機の免許も取った。「歌って踊れる技術者」もとい、「造って飛ばせる技術者」を目指した。「“造る”こともやってみたし、自分で“操縦する”ということもやってみて、非常に面白かったですね。また、そこで操縦する人の安全がとても大事だと感じました」。そういった経験から仕事では何より“安全第一”を心がけて取り組んでいるという。

 現在、「かぐや(SELENE)」のプロジェクトが無事に終了し、次期月探査機の検討に着手している。「月探査に関する懇談会※1という政府の諮問委員会があり、ここでは、白井克彦総長が座長を務められていますし、JAXAと早稲田大学の間でも連携協力協定を結んで、月探査の研究に目を向けています」。早稲田の研究室からも研修生として学生がJAXAで一緒に研究に携わっており、これからはさらに“早稲田から宇宙へ”がより身近なものとなるだろう。

宇宙探査の未来には、「教育」がとても重要な要素
 JAXAは宇宙教育にとても力を入れており、「宇宙教育センター」というものがある。「私が子どものころは、すでに人類が月に行っていた。中学生のころになるとスペースシャトルが飛んでいたので、『なんだ簡単に宇宙に行って帰ってくるんだ』と思っていましたね。昔に比べ、現代ではそのワクワク感が少なくなってきている気がします。私がコーポレートメッセージを付けるのなら、“ワクワクさせます!JAXA!”ですね(笑)。実は“月から見た地球の出”の美しい映像は、月探査の研究としてはあまり意味はありませんが、興味を持つきっかけとしてとても重要なものです。子どもたちも含めて『あっ!面白いことが起こるかもしれない、すごい未来が待っているんだ』と思ってもらえるようなことを私たちはやっていかなきゃいけないんだなと考えています。サイエンスや技術ばかりではなくて、アウトリーチ活動も必要ですね。そればかりではダメですが、そういうことも考えて仕事をしていきたい」。

 個人的な教育活動としては、博物館などで子どもの科学工作教室を開いて、スターリングエンジン※2の研究開発用モデル機の模型を実際に作って、動きを体験してもらうという取り組みをしている。「子どもたちには完成したモデル機の動きを見せて、どんな構造になっているのかを自由に考えてもらいます。今、宇宙探査の未来には“教育”がとても重要な要素となっていると世界中の宇宙機関が考えているんです」。

夢を持つこと、それを実現すること
 何をするにしてもやはり準備をしておかないとチャンスは掴めない。いろいろと挫折も経験した星野さん。自分がやりたいことがあるならなおさら、チャンスが急に来たときにそれに対応できるように準備して、力を付けておくことは必要だという。「例えば、資格を取る」。持っているからどうのこうのではなくて、この人は資格を取るぐらい努力をしているんだなという評価につながると考えている。「人生何度かチャンスが必ず巡ってきますから、それを逃さないようにするのは自分次第です。そのために勉強しておくのは大事なことだと思います」。

 また、いろいろな経験を積むのも大事だが、一つのことを集中してやっていくというのも良い経験になるという。「私は修士を含めて、6年間続けて100キロハイクに参加しました。あれをやり遂げれば“人間ってやれば出来るんだ!”と未来が開けますよ。私の先輩は、早稲田から本庄のスタート地点まで歩いて行って、そこから早稲田のゴールまで歩きました。私には出来ませんけどね(笑)」。

  “一生懸命に頑張ること”を早稲田で身に付けた星野さん。もうひとつ大切なことを話してくれた。科学技術の世界での共通語は英語である。しかし、母国語としている人は少なく、その多くが“プアーイングリッシュ”だ。けれど、お互い自分の考えていることを知ってもらいたいし、人がどう考えているか知りたいから、それで議論ができるという。「どんなに下手な英語でも、すごく良い技術を持っている人の話は聞こうと思うんですよね。逆にどんなに英語ができても内容がなければ誰も聞いてくれないし、内容はとても大切です」。自身の専門知識を役立たせるために“英語”を身に付ける。学生時代に頑張ってほしいという。星野さんは、あまり英語が上手くないと謙遜されるが、それでも多くの人が話を聞きたいと思ってもらえるように、今後の宇宙探査の研究も頑張りたいという。努力を惜しまない星野さんの姿勢に、これからの宇宙探査の輝かしい未来が見えるようだった。

星野 健さん

月周回衛星「かぐや(SELENE)」のハイビジョンカメラ(HDTV)が撮影した地球
▲月周回衛星「かぐや(SELENE)」の
ハイビジョンカメラ(HDTV)が撮影した地球
(c)JAXA/NHK


月面探査機。地球から月が見えれば、地上からの遠隔操作が可能。
▲月面探査機。地球から月が見えれば、
地上からの遠隔操作が可能。


岩や砂を細かく砕き、月面と同じパスダー状にしたもの。
▲岩や砂を細かく砕き、月面と同じパスダー状にしたもの。
作り出すのに非常に手間がかかっている。
とても細かく触れただけで粉が舞うが、
粒子が細かい分、棒などを入れようとすると
圧力がかかり、なかなか奥まで埋まらない。


琵琶湖の湖面から10mのところに設けられたプラットフォーム上で機体の最終チェック中
▲琵琶湖の湖面から10mのところに
設けられたプラットフォーム上で機体の
最終チェック中


真空状態を作る装置。この中に宇宙空間に接する素材や部品などを入れ劣化状態などを調べる。
▲真空状態を作る装置。この中に宇宙空間に接する
素材や部品などを入れ劣化状態などを調べる。

H-IIAロケット13号機打上げライブ画像5
▲H-IIAロケット13号機打上げライブ画像5
(c)JAXA


※1.月探査に関する懇談会
 宇宙基本計画(平成21年6月2日宇宙開発戦略本部決定)を踏まえ、有人を視野に入れた月探査に関し、2020年頃に実現を目指す高度なロボットによる無人探査の目標、解決すべき技術的課題、研究開発ロードマップ、他産業への波及効果等について具体的な検討を行うとともに、その後の長期的視点に立った有人宇宙活動を想定した人とロボットの連携による月探査の目標、我が国として取り組むべき課題、国際協力の在り方等について検討を行う政府の諮問委員会。

※2.スターリングエンジン
 1816年にスコットランドの牧師ロバート・スターリングが発明。ピストンの直線運動を直接利用した高効率フリーピストンエンジン。温度差による気体の膨張・収縮により作動するため、太陽熱・廃熱を利用できるエコ(低公害)エンジン。

 
1198号 2009年10月22日掲載