大学も民間企業と同じように、有価証券を運用し、その収益を教育研究環境の整備・拡充のための原資に振り向けるなど財政基盤強化の一助にしている。また昨今、各大学では、格付け機関による格付けを得るなど、財務状況の透明化にも努めている。大学とお金の関係とは、一体どのようなものなのだろうか?身近にいながらなかなか知ることのできない大学の「お金の流れ」について、本学の黒水治雄財務部長に、その「肝」となる部分について分かりやすく解説をいただいた。

(1)大学財政の仕組み
 ◎ 大学の収入はどこから?学費?寄付?資産運用?
 本学の学生数は学部・大学院で約54,000人、2008年度の本学の総収入は約987億円で、64%が学生からの入学金や授業料などによるもので、残りは補助金12%、受託研究による収入7%、寄付金5%、資産運用収入4%、その他8%です。一方、アメリカのハーバード大学の学生数は約20,000人、2008会計年度の総収入は、本学の約3倍の3,134億円(1ドル=90円換算)です。内訳は学費20%、補助金19%、寄付金6%、寄付基金からの繰入金(いわゆる資金運用収入)34%、その他21%となっています。
特徴的なのは、学費が日本の大学の3~4倍と高いものの奨学金制度が充実していること、その8割程度が卒業生や個人からの寄付による寄付基金(ファンド)が約3兆5千億円あり、その運用収入が大学財政に大きく貢献している点です。日米大学の収入構造・規模は大きく異なっており、教育研究における世界的な大学間競争では財政基盤の充実は不可欠なものです。
図表1 本学の収入(円グラフ)

図表1 本学の収入
 ◎ 大学はどうやって資金運用をしているの?
 本学ではさまざまな目的のために資金運用をしています。2009年3月31日現在で、奨学金やさまざまな将来計画のための引当金等で626億円の資金運用対象資産がありますが、そのうち246億円(約40%)を占めているのが、「第3号基本金引当資産」と呼ばれる奨学金や研究助成等を目的とした引当金です。これら資産の617億円が債権を中心とした有価証券で運用されています(図表2-1)。その運用収益は各種奨学金、研究助成、国際交流基金など教育研究環境を充実させるためのさまざまな活動や事業に使われています。
本学の資金運用は債券を中心に、3~4%程度の利率を目指した「ミドルリスク・ミドルリターン型」の、堅実で安定的な資金運用を行っています。その運用期間も5~10年の中長期間を見込んだものです。そのため収益拡大をめざした投機的なデリバティブ取引やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)、CDO(債務担保証券)などのようにリスクの見えにくい商品への資金運用は行っていません。総収入の大半が、皆さんから納めて戴いた大切な授業料ですから、「ハイリスク・ハイリターン型」の資金運用は相応しくないと考えているためです。
また本学の資金運用の内訳を見ると、円建て・外貨建ての債券が約80%を占め、株式保有比率は7.3%程度で、その多くは現物寄付によるものです(図表2-2)。そのため、昨今の世界的な経済危機による株式市場の影響を受けにくい運用ポートフォリオとなっています。さらに毎年、奨学金給付のために、一定の収入を確保しなければなりません。そのため株式ではなく、債券によるインカムゲイン(利息収入)中心の運用をすることで、定期的で安定した利息収入を得ることができるのです。

図表2-1 資金運用対象資金

図表2-2 資金運用

(2)資金運用収益の使途
 ◎ 資金運用の利益は学生にどんな形で還元されているの?
 次に資金運用が、学生の皆さんにどのように役立てられているか見てみます。2004年度から5年間の資金運用によって、実に123億円もの運用収入がありました(図表3-1)。この内約44億7千万円(36.1%)は給付奨学金として還元されました。2008年度には、在学生約7,200人に対して、総額22億4千万円の奨学金を給付することができました。特に2007年度には資金運用益を原資に総額6億円を給付する大型給付奨学金「創立125周年記念奨学金」を設立することができました。今後も国内大学有数の本学の奨学金制度を支えて行きたいと考えています。
図表3-1 資金運用収入の使途

図表3 資金運用収入の使途

図表3-2 給付奨学金額の推移
図表3-2 給付奨学金額の推移
そのほか運用収益は研究助成、国際交流、スポーツ振興、大学諸事業(施設の建設・維持管理、図書館蔵書の購入等)などさまざまな活動や事業にも充当されています。当面は厳しい運用環境が続くと思われ、運用収入は減少を余儀なくされますが、今年度は約18億円程度の資金運用収入が見込まれています。
有価証券残高

(3)資金運用の見方と評価
 ◎ どうやってリスクや運用を評価しているの?
 資金運用にはリスクを伴います。また、ある程度リスクを取らないと収益も上がりません。リスクには信用リスク(発行体リスク)と市場リスク(為替変動、金利変動等)があります。信用リスクは、発行体が倒産すれば元本が毀損しますので、優先的に回避しなければいけないリスクです。特に外国の発行体については先進主要国の政府および政府機関あるいは国際機関に限定しています。本学では、市場リスクのうち為替リスクを取って収益向上を図っています。2008年度末の有価証券評価損益は28億円(株式6億円、為替22億円)の評価損となっていますが、為替市場はこの20年間一定ゾーンで円高局面と円安局
面を繰り返しており、円高で一時的に評価損となっても5~10年間の中長期的視点で見れば十分に回復可能なものと考えられます。市場は変動を繰り返すものであり、資金運用では長期投資で十分に時間があることが最大のリスクヘッジでもあります。
資金運用はリスクリターンのバランスを図りながら、短期間の評価ではなく5~10年間の中長期的視点から、実現損益・評価損益などのトータルリターンを総合的に評価する必要があります。
※6月17日発行の『Campus Now(2953号)』および7月15日発行の『Campus Now 2009盛夏号』には、財務情報および本学の資金運用がより細かく記されています。興味のある方は参照してみてください。 


黒水部長より
本学財務部 黒水治雄部長
▲ 本学財務部 黒水治雄部長

 本学では多くの学生に対してより一層、教育環境の充実を図りたいと考えています。各種の奨学金、大学のさまざまな設備管理、図書館の蔵書購入、学生の諸活動への助成など、教育環境向上のために資金運用を役立てたいと考えています。一部には大学の資金運用を危惧する報道もありますが、いずれもリスクリターンへの配慮のなさ、短期的な収益拡大主義、運用とは言えない投機的取引など本来の資金運用の考え方から逸脱する事例が見られます。しかし本学の資金運用は、今後とも債券を中心としたミドルリスク・ミドルリターンの慎重な運用で臨んでいく方針です。
 最後に、日本の大学は欧米などの大学と違い、卒業生や個人からの寄付募集があまり根付いていません。皆さんが卒業し、社会に出られた際には後輩の教育環境向上のためにぜひ本学へわずかでも寄付などご協力戴きたいと思います。また募金の恩恵を受けた奨学生も、卒業したらぜひ寄付をして戴き、「寄付金循環」によって大学の教育基盤をさらに強固なものとすることにご理解とご協力を戴きたいと思います。宜しくお願い致します。

 
1196号 2009年10月8日掲載