私のイッピン つながっていく伝統と弓袋の巻

 今回登場してくださるのは、理工学部4年の林倫也さん。学部では燃料電池の研究を行い、併せて創立110年を超える弓道部の主将も務める林さんのイッピンは、弓袋。

 弓道部は、男子は1部復帰、女子は昨年と同様、全日本学生弓道王座決定戦の優勝を目指し、日々精進している。

 早稲田カラーのえんじ色に、白く抜かれた小さな弓には「主将」の文字。「これは、前年度の主将から引き継いだ弓袋なんです」。弓袋とは、名前の通り弓を入れるための袋である。決して重くはない弓なのだが、何しろ2mを超す長さだ。もちろん、そのままでは運ぶことはできない。そのため、公式戦などの遠征の際、この弓袋に入れて弓を運ぶのだ。

 中学生から弓道を始めた林さん。高校生の時には、全国大会に出場したほどの実力の持ち主だ。それでも「全国のレベルと当時の自分では、差があった」。大学入学後も弓道を続けるのを決めたのは、さらに上を目指したかったからだ。それまでの練習とは異なり「集中力を高め、考えながら弓を引いています」。どうすれば的にあたるのかを考え抜き、質を高めた練習を行ってきた。「普段の練習が、そのまま試合に出る」。だからこそ、毎日の練習にも気が抜けない。「試合への取り組み方も考えるようになりました」。

 4年生になり研究室に所属後、林さんはそれまで以上に忙しくなった。平日の練習時間には間に合わないため、部の練習後に1人で弓を引くほどだ。弓道部の主将を決める際も、それが一番の問題になった。「弓道部の主将として、部をひっぱっていくしかない」。だが、同時に学業との両立という壁が立ちはだかる。「副将や主務の協力があってこそです」。とはいえ、なかなか練習に参加できない自分に対し、思い悩むこともしばしばだ。そして、その悩みは、弓道部への思いが強いからこそ深い。それでも試合のたびに弓袋を見ると「主将としてやっていくんだと思った最初の気持ちに立ち戻れるんです」。そして、主将として試合に臨む。

 弓袋は消耗品であるため、何十年も使える訳ではない。だが平成12年度の主将から引き継がれてきた弓袋は、林さんで9年目になった。それぞれの主将も時に葛藤しながらも、最後まで主将を務めてきた。年数分古びてはいるが、丁寧に扱われてきた弓袋は、林さんからまた来年の主将へと引き継がれるだろう。そして、10年目を迎える。「この弓袋は、自分にとって大きな存在です」。まっすぐに放たれた矢のように、林さんは真摯に語ってくれた。


 
1194号 2009年7月16日掲載