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『夜と霧―ドイツ強制収容所の体験記録』
V.E.フランクル著 霜山徳爾訳
人生のさざ波や大波を乗り越える勇気を与えてくれる本!

■佐渡島 紗織
留学センター准教授 2008年4月嘱任
担当科目:学術的文章の作成、学術的文章の作成とその指導、世界の作文指導、教育学における質的研究方法

 私は、自身が学生だったときに衝撃を受けた本を紹介したい。V.E.フランクル『夜と霧―ドイツ強制収容所の体験記録』(霜山徳爾訳、1961年、みすず書房)である。もっとも、本書は2000年の某新聞社アンケートで翻訳ドキュメント部門の第3位だったというから、すでに読まれている方も多いだろう。

 『夜と霧』は、ユダヤ人心理学者がアウシュビッツ強制収容所等での日常を描いた体験記である。僅かなパンとスープで労働させられる毎日、極寒の荒野、労働監督の執拗な暴力、衰弱して死んでゆく仲間たち、そして煙を上げるガス室の煙突―この「異常な世界」で囚人たちの精神がどのように変化したかを分析する。

 しかし、本書の魅力は、大量虐殺の詳細を後世に知らしめている点だけではない。皮肉にもその苦悩の日々から、フランクルが、《人はどうしたら幸福になれるか》に対してある答えを出しているところにある。囚人たちは、日が経つにつれて「内面的な死滅が徐々に始ま」り、無感覚、冷淡、無関心になっていく。そのなかでフランクルは、「正常な世界」では体験することのなかった精神世界を経験する。例えば、看視兵にどなられながら鶴嘴をふるうなかに、心の中で妻と会話をし、「生まれて始めてつくづくと味わった」のは、「愛は、一人の人間の身体的存在とはどんなに関係薄く、愛する人間の精神的存在とどんなに深く関係しているかということ」であったという。 

 また、一日一回ユーモアを言い合うことを友人と約束し、「自己維持」ができることを発見する。フランクルは、どのような状態に置かれても、人間が自らの意思によって、気高い精神を持ち続けることができることを証明したのである。

 「人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである」。 本書は2002年に池田香代子訳による新版が出されたが、旧版には「解説」や「写真と図版」が載せられている。

1961年 みすず書房
1961年 みすず書房
1,890円(税込)


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「ウィークリー薦 コーナーが設置さています」
   
1190号 2009年6月18日掲載