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CD『ベートーヴェン交響曲第3番変ホ長調《英雄》作品55』
ベートーヴェン交響曲全集 Ludwig van Beethoven The Complete Symphoniesより人生において絶望の淵に立たされたとき人は何を思うであろうか

三村 隆男
大学院教職研究科教授
2008年4月嘱任 担当科目:キャリア教育の実践研究など(大学院)、教職概論、教育基礎総論など(教職課程)

 作曲家のキャリアにとって致命的である聴力の減退を前に若きベートーヴェンはハイリゲンシュタットで遺書を書く。耳の病に加え身内の問題の悩みも重なり絶望の淵に立たされるが、不死鳥のごとくよみがえり、ベートーヴェンはこの交響曲第三番(英雄)を作曲する。

 前に踏み出そうとしているとき、それを根本から阻害されるときほどキャリアに与える大きなダメージはないといわれている。そうした絶望の淵からなぜ彼は蘇ったのか。キャリア形成を専門とするようになり、改めて遺書を読み返すと、作曲家として果たすべき役割とそれを妨げる病などのさまざまな要因との葛藤をベートーヴェンは遺書を通し省察していると受け取れる。作曲というキャリアへの役割遂行への思いが勝利し、その結果、交響曲第三番(英雄)が生まれたのではないだろうか。ナポレオン1世に捧げられる予定であったこの曲が最終的に「ある英雄への献呈」とされた経緯に謎は多い。彼にまつわる逸話は美化されたものが多く信頼性に欠けるが、もし、彼の葬儀にこの曲の第二楽章(葬送行進曲)が流されたとすると、この曲はベートーヴェン本人に捧げられたことになるのではないだろうか。作曲家としてのキャリアを遂行することを選択し、私たちにこの曲を残した英雄に対して。

 身内宛てに書かれたハイリゲンシュタットの遺書であるが、今読み返すと私たちへのメッセージとも受け取ることができる。それぞれのキャリアを遂行しようとしているみなさんに、作曲家としてのキャリアを全うしたベートーヴェンのメッセージに耳を傾けていただきたい。推薦させていただいた交響曲第三番(英雄)の演奏は、非常にオーソドックス
ではあるがお薦めの演奏である。


2005年
オトマール・スウィトナー 指揮
ベルリン・シュターツカペレ 演奏 
コロムビアミュージックエンタテインメント
6枚組 5,040円(税込)


※各キャンンパス生協に
「ウィークリー薦 コーナーが設置さています」
   
1188号 2009年6月4日掲載