100万世代のアンモナイトに魅せられて・・・
私はアンモナイトの研究を40年以上、専門に行ってきました。アンモナイトは4億8000万年前に出現し、6,500万年前までの4億年以上の長期間に渡って系統が存続しました。この間に1万種類もの「仲間」がいたと考えられます(図1)。この期間存続したアンモナイトの種類を隈なく調べることで、実は100万世代もの生命の進化の歴史を追跡することができるのです。生物進化の研究史で言えば、例えばショウジョウバエの研究がもっとも古くから行われていますが、実際にはまだ80年程度の蓄積しかありません。10日で一世代変わるとしても、80年ではせいぜい3,000世代までしか追跡できないのです。ここに生物進化を研究する上で、アンモナイトに着目する深い意義があると言えます。
温暖化と生物絶滅
「絶滅」は地球生物の必然でもあります。やはりその要因として恐ろしいのは、急速な「温暖化」でしょう。通常、世界の海では「海洋循環」が起きています。なかでも温暖化の影響を受け、生物に大きな影響を与えるのが深層循環です。これは北極海に端を発し、海洋の隅々に酸素を行き渡らせるを働きをし、1,500~2,000年で地球を一周します。しかし気温の上昇が起き、北極海に海氷が出来なくなると、この深層循環が停止してしまいます。すると世界の海底に酸素が供給されなくなります。やがて海底に生物は住めなくなり、表層のプランクトン、中層の遊泳生物、底層の生物の死骸の分解のためにわずかな酸素も消費されます。このような酸素の無い海中では、硫化水素(H2S)というフロンガスと同様の、オゾン層破壊効果を持つ有毒ガスが硫酸細菌によって生成されます。これにより海洋生物のみならず、陸上の動植物の生存にも深刻な被害を与えます(図2)。
これを「海洋無酸素事変」と呼びますが、この現象が玉突き状に環境の激変をもたらしました。地球では過去5億年ほどの間に5回以上、海洋無酸素事変が地球規模で発生し、大規模な生物絶滅が繰り返されてきたのです。
さらに大気中の二酸化炭素濃度(分圧)が900ppmに到達すると、生物の大量絶滅が起こったことも分かっています。近年の分析結果によると、2009年現在は約360ppm(100万分の360という意味で0.036%)とされています。CO2濃度の増加率を見てみると、もっとも「悲観的」な推測で2100年までに1,000ppm、もっとも「楽観的」なものでも550ppmを超えると算出されています(図3)。いずれも北極海の海氷は2100年までには無くなり、深層循環は停止すると予測しています。つまり今後90年間で、人類だけではなく、地球上の生物が危機的状況となることは明らかです。「海洋無酸素事変」「900ppm以上の二酸化炭素濃度」など、生物が大量に絶滅してきた過去の地球環境の生物絶滅条件が、刻一刻と確実に整いつつあるのです。 |

図2 海洋無酸素事変(OAE)

図3 Kump, Pavlov, and Arthur(2005) Geology による
絶滅のモデル図 |
絶滅の危機に人類は生き延びられますか?
温暖化の進行で人類が生き残れるか・・・それは私にも分かりません。むしろお国のリーダーたちが、それぞれの政策で答えるべき問題かもしれませんね(笑)。
ところで100万世代を生き抜いてきたたくましいアンモナイトを例にとると、彼らは浅い海に適応して大繁栄した生物です。浅い海が増えると、アンモナイトも増えていることが分かっています。逆に昔から浅い海に棲んでいたオウムガイなどは、新たに台頭してきたアンモナイト勢に追われて、海の深い方へとその棲家を追われたのです。地球生物の命運を分けた6500万年前の隕石の衝突では、地球環境の激変により、アンモナイトを含む地球上の多くの生物が絶滅しました。しかし比較的影響の少なかった海の深い場所にいたオウムガイなどは、現在までも生きながらえることができたのです。浅い海だけといった特定の環境のみに適応することは、環境が変化した時に生き抜くことをときに困難とするの
です。
陸上生物でもこのときの劇的な地球環境の変化で、25kg以下の動物しか生き残れなったと考えられています。恐ろしい恐竜から逃れるために小さな体で穴の中で暮らし、嗅覚や聴覚を頼りにした夜行性のネズミのような「人間の遠い祖先」も、このときなんとか生き残ることができました。生物の生存とは環境への適応であるとともに「偶然」でもあるの
です。 |