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『ヒストリエ vol.1-5』岩明 均 著
本の虫、世界の最果てを見る

田中 久稔
政治経済学術院准教授 
2008年4月嘱任
担当科目:ミクロ経済学α,経済数学

 アレキサンダー大王の秘書官エウネメスの波乱万丈の生涯を描く傑作漫画。電話帳のように分厚いアフタヌーン(講談社)にて連載中である。漫画と侮ることなかれ、本作はべらぼうに面白いストーリーに包まれた勉学意欲の起爆剤として並ぶものなき書物なのである。

 本の虫である主人公の造形、周到な伏線、残酷すれすれのアクション描写、ヨーロッパとオリエントという二つの文化圏の激突が生むエピソード群の重層構造は、さすがは『寄生獣』(アフタヌーンKC)の作者である。しかし私にとって本書の最大の魅力は、主人公の活躍を通じて描かれている「学問の面白さ」にある。

 たとえば本書冒頭で、主人公は「あの」アリストテレスに出会う。浜辺のたき火を囲んで一晩中語り合うエウネメスとアリストテレス。私もその場にいられさえすれば!あるいはたどり着いた異民族の村で保護と引き換えにギリシア神話の講義をする主人公。自分たちの経験に引き付けて積極的に講義に参加する聴衆は、教師にとって理想の学生像である。その恩義ある村を侵略から守るべく主人公が考え出した策もまた、膨大な読書経験が生み出したものであろう。

 なんとも喜ばしいことに、残された書物を通してアリストテレスの講義を受け、エウネメスと読書体験を共有することならば、現代の我々にも可能である。本作を楽しまれたならば、ぜひとも『ヘロドトス』や『オデュッセイア』(いずれも岩波文庫刊)を手に取っていただきたい。軽々と時空を超える書物の力に魅了されること請け合いである。またアリストテレスの巨大さを知るには『中世の覚醒-アリストテレス再発見から知の革命へ』(紀伊国屋書店刊)が絶好の入門書である。


2004年
講談社アフタヌーンKC
vol.1-4各560円、vol.5 570円(すべて税込)


※各キャンンパス生協に
「ウィークリー薦 コーナーが設置さています」
   
1184号 2009年5月7日掲載