えび茶ゾーン 

えび茶ゾーンの原稿は、全学の教員が交替で執筆しています。

 ご多分に洩れずのメタボ対策で、大学と池袋とのあいだを毎日歩くことにした。大学に入学してから三十年近く、海外等に住んだ数年を除いて、四半世紀にわたって往復を繰り返してきた区間であるが、初めて出会う街角や、いつのまにか一変してしまった風景にいくつも出会う

 あらたに副都心線が開通したところでもあるが、あえてこの四十分ほどのみちのりを、毎日コースを変えながら歩いてみる。神田川を渡るにも橋はいくつもあり、目白台へと上る坂はさらに数が多く、日々の選択肢はなかなか尽きない

 鬼子母神参道の槻並木は、学生の頃、近くの病院に行くのに通った懐かしい道だし、雑司ヶ谷霊園の真ん中を通り抜ければ、日頃活字の上だけのつきあいである明治の文人・作家たちに挨拶もできる

 夜遅くまで議論の白熱した会議のあと、頭を冷やしながら目白台の坂を護国寺の駅の方へ下っていると、たまたま仕事で上京していたという卒業生にいきなり声をかけられて驚いたこともあった

 護国寺から鬼子母神の脇を抜けて、池袋駅西口へ延々と続く細い道は、弦巻川の川跡を辿る。戦前に暗渠となっていまは下水道だが、昨夏、急な出水で痛ましい事故の起きたことは記憶に新しい

 「都の西北」を歴史や文学に思いを馳せながら歩くのは、気分転換にもなるし、たしかに健康にはよさそうだが、とはいえ、時とともに定説も移りかわって、少しくらいメタボなほうが長生きできる、ということにでもならないものかと、じつはひそかに期待している。(GE)

 
1177号 2009年1月15日号掲載