薦!新任教員によるおススメ!本・映画・音楽・舞台

DVD『あの子を探して』監督:張芸謀
「私の世界」を再発見したい人のために

山本登志哉
人間科学学術院教授
2008年4月嘱任
担当科目:社会文化心理学・文化心理学的発達論他

 研究のおもしろさは自分が縛られていた常識が打ち破られ、新しい世界が切り開かれ、自分自身が再生する喜びを知ることにあると思う。

 人間の発達を考える中で「文化」の問題に突き当たった私は、フィールドでカルチャーショックを受け、自分を更新する必要に常に迫られる。それは辛いものでもあるが、同時に相手との対話の中から新たな他者理解や自己理解が展開し、思わぬ新しい世界が切り開かれる大きな成長体験でもある。

 そんな体験を比較的お手軽にする方法がある。それは異文化の映画を見ることである。そこでお薦めの映画が張芸謀監督の『あの子を探して』である。99年にベネチア映画祭グランプリをとったこの映画、一人も俳優を使わない。監督が場面設定をして「こういう場合、あんたならどうする?」と尋ね、答えた通りに「演じて」もらう。演技者はその先の展開を知らないまま、ただ自分の感覚で振る舞う。それを監督がつないで物語にするので、演技の「リアル」さは出色である。

 「半分中国人」と言われることもある私は、その半分でリアルさに心から納得し、しかしもう半分で展開の不可解さに衝撃を受け続ける。そして大混乱のまま迎えるラストシーンで、突如として感動が訪れる。だからといって不可解さは全く解消されることもなく、大きな「問い」として残り続ける。

 私は中韓越の人たちとこの映画の感想でディスカッションをしてみた(山本・伊藤編2005『アジア映画をアジアの人々と愉しむ:円卓シネマが紡ぎだす新しい対話の世界』北大路書房)。お互いの感想はずれにずれ、理解をしようとするとさらに大きな謎が現れる。対話の中で自分の足下が崩れ、その向こうに新たな世界が微かに見え始める。異文化対話のツールとしてもお薦めである。


「あの子を探して」
DVD発売・販売元:
(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
3,990円(税込)


※各キャンンパス生協に
「ウィークリー薦 コーナーが設置さています」
   
1175号 2008年12月4日掲載