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DVD『雨月物語』
匂い立つ幽玄の美

田渕 句美子
教育・総合科学学術院教授
2008年4月嘱任
担当科目:中世文学A、中世文学演習ⅠA・ⅡA他

 私の専門は日本の古典文学(中世文学)だが、日本の古典文学を題材にした映画(DVD)には、なぜか秀作が少ない。その中で、自信をもっておすすめできるのが溝口健二監督の作品であり、中でも『雨月物語』が卓抜である。これは溝口監督が、上田秋成『雨月物語』の中の「浅茅が宿」「蛇性の婬」から題材を得て、映画化した作品である。戦国時代を舞台にした、二組の貧しい夫婦とこの世には亡い一族の姫との、幻想的な物語である。

 ゴダール(フランスの映画監督)は、「好きな監督を3人挙げるとしたら?」と尋ねられ、「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ。」と答えたという。世界のゴダールいわく、「UGETSUなどを観ていると、その映像の美しさに、5分で涙が出てくる」。ヨーロッパの映画ファンには、クロサワよりミゾグチの方が人気が高いだろう。『雨月物語』は、1953年に、ヴェネチア映画祭で銀獅子賞を受賞している。

 ゴダールが言うように、この映画が与える衝撃は、戦慄するほどの映像の美しさである。しかも最後まで映画の糸が切れず、緊張感が張り詰める。白黒映画なのに、白と黒のグラデーションに、絢爛たる色彩が浮かびあがる。陰翳が織りなす、幽玄の世界である。時に画面をつよく斜めに横切る線は、向こう側の世界へ渡っていくようだ。静と動のつりあいも完璧で、激しさと静かさが共存している。欲望と戦乱に翻弄される愚かな人間を描いているが、説教臭は一切ない。判断も解釈も下さず、ただ見ること・見せることに徹底している。溝口の妥協を許さない姿勢が感じられるが、描き方は淡々として、過剰な部分はない。このような時代物、死霊物の映画が、作り物の印象を与えないのは、王朝時代から中世・近世にかけて培われた美的感性や精神文化が、核にあるからだ。能の影響も大きい。この映画は、日本文化の幹からにじみ出る無常観と様式美を、非現実的、幻想的な空間に溶け込ませており、そこに普遍的な美が匂い立っている。日本古典の文化テクストとして、ぜひ一度観てほしい。

「雨月物語」
「雨月物語」
DVD発売元:角川映画
販売元:角川エンタテインメント
4,725円(税込)発売中
(C)1953角川映画



※各キャンンパス生協に
「ウィークリー薦 コーナーが設置さています」
   
1169号 2008年10月23日掲載