研究最前線

中国と東アジア
アジア地域統合をめざして

 東アジアを中心に経済、安全保障、文化交流等の多様な面で、アジアの「共生・協働を模索する動きが高まっている。2007年からスタートした、グローバルCOEプログラム「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」の拠点リーダーである天児慧アジア太平洋研究科教授に、東アジアおよび現代中国についてお話をうかがった。

◆天児 慧(あまこ・さとし)
大学院アジア太平洋研究科 教授
  早稲田大学教育学部卒業。東京都立大学大学院法学研究科修士課程修了。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了、博士号取得。琉球大学助教授、共立女子大学国際文化学部教授、青山学院大学国際政治経済学部教授を経て、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授に。 著書:『中国・アジア・日本-大国化する「巨龍」は脅威か』『巨龍の胎動-毛沢東VS小平』『中国とどうつきあうか』など。

 天児教授の研究の軸は中国問題およびアジアの中の「日中関係」にある。特に現代中国の政治社会を客観的に理解する方法論を研究し続けている。「明治維新100年論争*1」が巷をにぎわせていた1967年に大学に入学して以来、アジアに関心を持ち続け、95年には「アジア主義およびアジアと日本の関係*2」に関する研究をまとめた。

台頭する中国を東アジア全体でどうみていくか?
  「中国という国はもともと社会主義国家であり、中国共産党という組織がリードしています。しかし、資本主義的な経営が導入されて以降、政治体制の行方が注目されています」と語る天児先生。「今や、中国の政治や経済の動向が、世界情勢にまで影響する状況下で、中国研究においても『中国』を国際社会の中でとらえなおし、さらには、日中関係も日本と中国の二国間だけでなく、国際社会との関係の中で考える視点になっています」。

 アジアにおいて中国の影響力が急速に拡大する中で、中国に対応していくためには、周辺国同士が連携を強めていくことが不可欠だ。「中国側も、他国のプレゼンスや力を認めてこそ、真に対等に関わりあうことができます」。中国にも地方の貧困やインフラの問題、食の安全や環境問題など、脆弱な部分は山積しており、他の国からの支援を必要としている。「日本も同様に、経済大国と言われた時代から、少子化が急激に進み、景気の回復も見られず、今後の見通しも明るいとはいえません。アジア各国がそれぞれの問題を抱えており、その解決のためには、地域の協力体制や共同体が不可欠となり、さらなる発展に役立っていくと期待されているのです」。

なぜ、今、 東アジア共同体なのか?
  現在、東アジアには欧州共同体(EU)のような広範な共同体は存在せず、21年の歴史を持つ東南アジア諸国連合(ASEAN)には、日本や中国は加盟していない。また、環太平洋の協議体として、アジア太平洋経済協力会議(APEC)があるが、米国、カナダ、ロシア、メキシコ、ペルーなども含む21カ国・地域からなる協議体で、アジアの地域独自の統合体ではない。97年の「アジア金融危機」以来、アジア経済が共通の虚弱性を抱えているとの認識が高まると同時に、アジアの経済発展の中で、世界経済への継続的な貢献が不可欠となり、東アジア独自の地域協力の必要性が叫ばれるようになった。ASEAN+日中韓サミットや東アジアサミット(EAS)が開催されるなど、東アジアにおける協力関係や共同体の構築が重要視されてきている。

「アジア・ヒューマン・ コミュニティー(AHC)」研究所
  「東アジア共同体というと、議論は経済が中心になりがちで、『成長』『発展』が注目されがちですが、アジアの中に大きな矛盾があるのも事実。貧困、格差、経済成長による環境破壊、感染症の問題などの成長の中で生まれている負の部分を、各国がどう連携して処理していくか、意識的に対応・解決しなければ、問題はさらに深刻化します」と天児先生は危機感をつのらせる。これらのアジアの影の部分を解決するネットワークと問題意識の共有にターゲットをあてたプロジェクトが、「アジア・ヒューマン・コミュニティー(AHC)」研究所である。2008年1月のシンポジウムを含め、徐々に活動範囲も広がり、企業を巻き込んだ活動に発展し、寄付講座の開設や中国の研究所との共同研究や人材育成の連携などにつながる見込みである。

 AHCのプロジェクトは「活動する知識人のネットワーク」であり、その課題研究が発展・深化する中で、天児教授がリーダーをつとめるグローバルCOE「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」につながっていった。

グローバルCOE「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」
  2007年からスタートした、このグローバルCOEには、1)人材育成およびその拠点形成、2)各分野を包括する地域ガバナンスの理論構築、3)地域ガバナンス・危機管理メカニズムのネットワーク形成の3つの大きな目標がある。さらにその目標を「政治・安全保障」「経済」「社会・文化」それらがクロスする4つの領域を軸に総合的な研究教育体制を構築し、アジアの統合・協力を考え、専門家になろうとする学生を増やしていくことや各国学生の共同作業により、将来の地域統合を目指す人材ネットワークの中心的役割を果たす人物の育成を目指している(図参照)。

東アジアの今後と課題
  東アジア共同体形成に向けてのアプローチの中でも、天児教授はボトムアップの共同体
を重要視している。地域協力を積み上げ、包括的な協力枠組みの制度化を図ることが信頼関係の構築につながり、不必要な対立を減らすと考える。「現在の東アジアにおける共同体の議論は、政府やシンクタンクなど、トップダウンばかりで行われていることが問題です」と指摘する。アジア地域においては、歴史的背景や文化の差異などから、意思統一が難しいため、政治などのトップダウンアプローチとは異なる、ボトムアップのアプローチが必要になってくるのである。このため、大学の社会的役割は大きく、さまざまなネットワーク構築や人材育成に力を入れていく必要がある。「早稲田大学には、清国留学生部以来の100年以上におよぶ深いアジア各国との交流の歴史があり、アジア太平洋研究科という母体もあります。このような母体がなければ、学会を作って、期限つきのプロジェクトを実施するしかなく、継続性の点で問題がでてくるのです」。しかし、アジア太平洋研究科であれば、世界各国から集う優秀な留学生が332名在籍し、研究科全体の67.2%となり、学生数の規模も大きく多彩だ。「人材育成の組織、拠点としてすでに機能しており、今まさに発展し広がっている最中だと実感しています」。一つひとつの活動が、東アジア共同体の実現につながっている。

*1 明治維新100年論争:明治維新以降の日本のアジアへの進出・侵略や歴史をどう考えたらよいかという論争
*2 アジア主義:明治から昭和にかけて侵略をも含めアジアとの連帯を唱えた思想(竹内好)、心情的連携にせよ、戦略的連携にせよ第一にアジアを重視する考え方(天児『日本の国際主義』(国際書院)参照)


























 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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1168号 2008年10月16日掲載