香瑠鼓さんは『慎吾ママのおはロック』や、最近では新垣結衣の「ポッキー」のCM、Perfume『ポリリズム』のサビ部分の振り付けを手掛けるなど、常に時代の最先端で流行を生み出し続けるヒットメーカーだ。一方、障がい児などにダンスレッスンを行うワークショップを継続的に開催。ダンスを用いた独自の理論で、障がいや年齢、性別といったあらゆるバリア(障壁)を超えて、その人の本質を引き出す新しいバリアフリーの道を切り開いている。
将来の夢は
「ミュージカルスター」か「教師」だった
5歳のころミュージカルスターか教師になると周囲に明言していた。高校3年生の時、進路を考えていて一度は忘れていたその夢を思い出した。だが、ミュージカルスターと教師は一般的に考えると両立できそうもないように思える。そんな折、芸能活動をしながら肢体不自由児の社会福祉施設「ねむの木学園」を発足した宮城まり子の存在を知った。「普通はどっちか選べという言い方をされますよね。でも、あの人がいるから大丈夫だ。私もどっちもできると思いました」。本学入学後、体が動く間にまずはミュージカルだと思い、オーディションを受け始め、在学中に主演でデビューした。「進路に迷っても人と同じにしなくてはいけないとか、焦ったりする必要はないんです。答えは自分の心の中にあるはずだから」。現在はダンスを指導する立場。見事にミュージカルスターと教師になる夢を果たしたのだ。
バリアフリーとの出合い、そして「共振」という理論
ある日、足が不自由な妹を通じて知り合った学習障がい(LD)の子どもが弟子入りを志願してきた。生まれて初めて自分から何かをやりたいと言っているというその子の母親の言葉を聞き、ダンスレッスンを始めた。それから15年、現在は月に1度、障がい者が参加できるワークショップを開催。取材で訪れた5月18日のワークショップは、深呼吸から始まった。動物などの自然の動きを表現したり、参加者同士でハグしたり、一人が即興で表した動きを参加者全員でまねたりするうち、いつの間にか障がい者、健常者などの垣根がなくなっていった。これは動きの「会話」を通して、他者と「共振」した結果だという。「共振」とは、物質を構成する微細な粒・粒子のレベルでお互いが共鳴するという独自の理論。参加者はダンスをするうちにレッテルを張られた自己から解放され、粒子レベルの本来の姿をさらけ出して深いところで他者と交流する。その過程で重要なのが「即興」だ。「考えずに感じることが大切。CMでも感じたことを素直に振り付けにすると流行るんです。音楽を聞いたり、振り付けをするスターを見たりすると、図形とか音とかが浮かんできます。粒子の振動を感じるからです。これは訓練で誰もができるようになります。障がいのある方と接するときも同じ。体を使って感じたまま、少しずつ会話をしていくことが、その人の中身を引き出します」。ワークショップの最後は、参加者や父母、見学者などが輪になって座り、感想を言い合う。参加者の誰もが楽しかったと笑顔で振り返った。
「共振」を理論的に実証し、ワークショップで世界を回りたい!!
「ミラーニューロン*の操作はもちろんですが、それより体を動かすことで相手とつながることがあると思います」。その言葉からは物理学や脳科学の専門用語も出てくる。「共振」の理論を科学的に実証するため、専門書を読みあさるなど、勉強を欠かさない。「共振」
のための具体的なメソッドもある。「全体を見ることが重要です。一歩引いて客観的に周囲を見る。それを音と動きに還元するんです」。一つに執着せず、発想を切り替えていくことも大切。そのためにワークショップ中は、意図的に異なるビートの曲を流す。「力が抜ける
瞬間に発想が切り替わるんです。力を抜くには、足の下が水だと思って歩きます」。振付師としてのキャリアとバリアフリーの活動から具体的に得たこれらのメソッドや理論を、科学的にも実証することが目下の課題だ。論文も執筆している。
ワークショップで、ある参加者の父母に話を聞くと、「ダウン症の息子から、声を引き出してくれた。奇跡的なことです。こういう活動がもっと広がっていけばいい」と語った。そんな思いと呼応するように、香瑠鼓さんはワークショップで世界中を回ることも検討している。「今の方法なら言葉に関係なく世界中を回れる。言葉じゃなく体の中から出てくるものだから、人種も超えられる」。51歳を迎えてもなお精力的に、誰もが歩んだことのない道を切り開き続ける。
*ミラーニューロン・・・他人の動作に反応したり、共感する際に機能すると考えられる神経細胞。この細胞を操作することが自閉症児の治療に有効であるともいわれる。
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