とっておきの話 アメリカ研究者、ロシア民謡を歌う

アジア太平洋研究科 篠原 初枝教授

久しく趣味とは縁のない人生を送っていたが、40を過ぎたころ、身内に不幸があったこともあり、何か余暇を充実させるものはないかと思い立った。たまたま友人がロシア民謡(ロシア・ロマンス)の合唱団に入っていたので、ものは試しと飛び込んだ。合唱など小学校以来だし、音符も読めず音痴といわれたこともあり不安だったが、性に合ったのか今日まで続いている。

 音楽も素人であったが、ロシアという地域にもそれまで接点はなく、専門がアメリカを中心とした国際関係であるので、ロシアにはどこか否定的なイメージを抱いていた。また、ロシア民謡についての事前知識も乏しく、知っていたのはトロイカぐらいで、ましてやロシア民謡がかつて日本で流行した時代があったことも知らなかった。

  しかし、歌ってみると、民衆の苦しい生活や囚人の境遇を歌う哀愁に満ちた歌もあれば、コミカルで調子の良い戯れ歌あり、またグリンカやチャイコフスキーなど作曲家による名曲もあり、実に多様な調べに魅了された。おまけに、今まで講義では「先生の声は高くて
聞き取りにくい」と言われることもあったが、歌う場では高音もそれなりに(綺麗に発声されれば)役に立つ。

  こうしてロシア民謡がらみでいろいろな活動を経験した。ロシアへの演奏旅行にも参加したし、日本でも東京文化会館やあちこちの舞台に立って歌った。また、養護老人ホームなどへ赴き、お年寄りの前で歌ったこともある。収集した古いロシア語の楽譜から本国ロ
シアでは忘れられている曲を発掘し日本語に訳す活動も行う。

  あいかわらずロシア語も音符もまともに読めず、ときには調子を外してしまう。しかし、衣装をまとい舞台に立ってライトを浴び一心不乱に指揮棒を見つめ歌うのは楽しく、まして拍手でももらえれば気分はいっぱしの歌い手である。


民族衣装サラファンの舞台衣装
▲民族衣装サラファンの舞台衣装

ロシアの古都ノヴゴロドにて
▲ロシアの古都ノヴゴロドにて

 
1157号 2008年5月29日掲載