「生活の中心は馬です」。佐藤さんはそう言ってにこりと笑う。毎日、朝7時から始まる
馬術部の練習に参加するため、どんな日も厩舎に向かうのだ。「眠くてたまらないときでも
馬の顔を見ると、ぱっと目が覚めるんです」
彼女が出場する馬術競技は「障害飛越競技」という種目。設置された障害コースを規定時間内で走行し、タイムと減点方式で順位を競う。大きな障害を人馬一体となって飛越す
る様は思わず息を詰めて見入ってしまう迫力だ。「タイムをかける緊張感が好きです」。勝
負をかけて緊張するのは佐藤さんだけではない。「パートナーが『南無』号だからこそ、結果に結びついています」。『南無』号は御年5歳。人間の年齢に換算すれば60歳のベテラ
ンだ。「『南無』は他の馬とはすべてが別格」。まず競技のセンスがいい。頭がよく、跳ぶタイミングの計り方もうまく力がある。「小柄な体格も、背の小さい私にぴったりの馬です」。
早稲田大学に進学する時、いっしょに長野から上京してきた大切な相棒だ。
長野の実家はお寺と馬術クラブを運営している。山がまるまる馬術コースになっているような恵まれた環境で、住職の父より7歳から指導を受けた。父も1980年、幻のモスクワオリンピック馬術競技の代表選手だった。同じく指導を受けた一番上の兄は今年の北京オリンピックの代表である。「馬第一主義の家族です。この競技は、馬とのパートナーシップがいちばん大切。リードしつつ、相手には自分自身を何より理解してもらわなければならない。だから馬とはなるべく一緒の時間をとるようにしています。もう馬が彼氏のようです(笑)」
大学に入学するまでは個人で競技に出場していた。「馬術部に入部してからはチームで競技に臨むことの楽しさを知りました」。今の目標は一つひとつの大会を着実にこなしていくこと。そして2012年開催のロンドンオリンピックへとつなげられたら…と思っている。今日も東伏見の空の下、相棒『南無』号と駆ける佐藤さんだった。
|