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人にやさしい環境づくりについて 考えるために
『こびとのまち』青山 邦彦著

■小島 隆矢
人間科学学術院准教授 2007年4月嘱任
担当科目:建築環境学、環境行動学

 評者が建築学を専攻する大学院生であった約10年前のこと。店頭で何の気なしに手に取り、いっぺんで気に入り、購入した絵本を紹介したい。

  ある日突然、現れた「こびと」の一族。建築家の「マルヒゲさん」は、彼らと一緒に住む家をつくりたいという依頼を受け、まじめに、楽しく、ドタバタと奮闘する。そんな話である。
  作者は本学建築学科卒、建築事務所勤務を経て絵本作家になったという。建築家のパース(透視図)やスケッチの、描き込みを多くしたような画風が面白い。

  事務所の様子(おそらく現実のモデルがあるのだろう)、アイディア会議(建築分野ではエスキスと呼ぶ)の展開などには、いちいちリアリティがある。マルヒゲのスケッチブック上に、こびとが人間と会話しやすいために、目の高さがあうところに彼らの居場所を作るアイディアや、大げさにいえば人間工学的検討が繰り広げられる。結果、どんな家ができたのか? それは文章による説明はほとんどないが、完成後の場面の絵を子細に眺め、読み取ろうとすればいろいろなことが読み取れる。もしかすると、作者は実際にこの家を「設計」してしまっているのかもしれない。

  表紙のオビに「地球上でのほかの生き物との共生」云々がテーマと紹介されているのは、やや的外れに感じる。野暮を承知で評者の解釈を書くと、こびとが象徴するのは現状の環境との間に何らか不具合を生じている生活者全般(つまり我々)であり、人間中心の環境づくり・ものづくりはかくあるべしという姿勢を、マルヒゲを通じて主張しているのである。

  ラストシーンは「このまちをつくりなおしてくれるきょじんはいないものか」というマルヒゲのつぶやきで終わる。彼もまたひとりのこびとであったわけだが、現実世界ではきょじんは待っていても現れない。こびとである我々自身が、まちをつくりなおすきょじんとなるしかない。
こびとのまち
1996年 パロル舎
1470円(税込)


※各キャンンパス生協に
「ウィークリー薦 コーナーが設置さています」
   
1155号 2008年5月15日掲載