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心理劇「狂言」へのいざない 『狂言のことだま』山本東次郎著 

■小林 賢次
教育・総合科学学術院特任教授 2007年4月嘱任
担当科目:日本語学史・日本語史、日本語学演習

 中世、室町時代あたりから現代語に至る流れをとらえるための資料として、狂言の台本を見比べている。江戸時代の初めあたりから、それぞれの流儀で多くの台本が書き残されており、伝承や時代による改訂の姿をうかがうことができる。ただし、台本はあくまでも心覚えのためであり、実際の狂言の伝承は、代々、親から子へ、師匠から弟子へと、口伝によってなされ、「言霊」である科白やしぐさが鍛えられているという。大蔵流・和泉流という二つの流儀、また、その中でも各家において伝承とその洗練が行われ、現在、それぞれに特色を持った狂言の舞台を目にすることができるのは幸いである。

  本書『狂言のことだま』では、武家の式楽を受け継ぐ本格派の芸風で鳴る大蔵流山本家における伝承と、また、60年間狂言を演じ続け、考え続けてきたという山本東次郎師による、鋭くまた含蓄に富んだ狂言論が展開されている。国語教科書に取り上げられておなじみの「附子」や名曲「棒縛」を例にとると、太郎冠者と次郎冠者それぞれの立場、また両者の心理の葛藤をくみ取ってほしいという。狂言はただ安易に笑わせるものではなく、練り上げられた心理劇であり、人間の存在を描くものだという主調が基調になっている。

  本書を読んで狂言に興味を持った人、今まであまり狂言に接していなかった人は、一度能楽堂(薪能もよいが)に足を運んで、伝統芸能の楽しさと奥深さに触れてみてほしい。特に、山本家の狂言を観るには、東次郎師の自宅に設けられている杉並能楽堂の狂言の会が“ 薦! ”。趣のある桟敷席にゆったりとくつろぎながら、舞台間近で迫力のある狂言を堪能できる。終演後、東次郎師直々の解説・狂言論が聞けることも多い。
狂言のことだま  
2002年 玉川大学出版部 
2100円(税込)


※各キャンンパス生協に
「ウィークリー薦 コーナーが設置さています」
   
1154号 2008年5月8日掲載