薦!新任教員によるおススメ!本・映画・音楽・舞台

人生の節目に再読してみたい本  『壬生義士伝(上・下)』浅田次郎 著

■佐藤 哲也
理工学術院教授 2007年4月嘱任
担当科目:熱力学、ガスタービン・ジェットエンジン概論など

  書店に並んでいたら絶対に手に取ったりはしなかっただろう。在英中、日本語の活字が無性に恋しくなったとき、大学院生にお願いしたところ、お土産にいただいたのが本書との偶然の出合いである。読み始めた瞬間は、なんだ、時代小説かとがっかりしたのであるが・・・。

  吉村貫一郎という盛岡藩の貧乏侍は長身、美形で、人並みならぬ努力の結果、剣術、学問とも秀逸。今なら、映画俳優でも、スポーツ選手でも、ちょっと落ちる(?)が大学教授になっても成功間違いなしの人物である。ところが、身分社会という時代の流れの中で、その才能、努力は評価されることはなく、妻子を養うために脱藩して新撰組に入るという話である。貫一郎は、稼いだお金をすべて仕送りにあてるという生活。身なりは粗末で、人からは守銭奴とさげすまれながらも、確固たる信念を持ち、いつも笑顔で、人として為すべきことを実行する。誰よりも強く、誰よりも優しい貫一郎は、結局報われなかったように見えるが、まわりの人々に強い影響を与えていく・・・。

  本書は、読み手の経験、性格、気分によって、さまざまな様相を見せてくれる。
  私は本書から「今できることを考える習慣」と「人とのつながりの深さ」を学んだ。人間関係での悩みを抱えている人は多いと思うが、貫一郎や周囲の人々の生き様は、何かしらの道を示してくれるだろう。もちろん、気楽に小説としての面白さ、巧みさに身を委ねても良いし、映画のように一人の登場人物からの視点で読むのも楽しい。

  学生で既に読んだ方も、社会に出てしばらくした後、再読されたい。本書から全く違った印象を受けるはずであり、また受けて欲しいと思う。私などは既に十数回読んでいるが、全く飽きさせない新鮮さがそこにある。
2000年 文藝春秋 各1600円(税込み)

※各キャンンパス生協に
「ウィークリー薦 コーナーが設置さています」
   
1153号 2008年4月24日掲載