わせだかいわい |
男子学生宿舎 宏明館 辻井 宏子さん
かつて早稲田大学周辺には多くの下宿屋があり、地方から上京してきた学生たちでにぎわっていたが、次第にマンションやアパート住まいを好む学生が多くなり、一軒また一軒と姿を消していった。 昭和の始めに開設された宏明館は、そんな時代の流れにあらがうように、緑と土が香り、木の温かみを感じさせる昔ながらの下宿屋の雰囲気を今に伝えている。「ふるさとの家とよく似ていると言う方がかなりいらっしゃいますね」と管理人の辻井宏子さん。祖父母が始めた宏明館を受け継ぐ3代目だ。 昔の下宿屋というと、住人たちの家族のような付き合いを思い起こさせる。 「子どものころ、早稲田の学生さんに家庭教師をしてもらったんですよ。うちの部屋も今みたいに鍵なんかかける時代じゃなかったから。学生さんが茶の間に出入りして、母(先代)なんかと一緒にお茶を飲んでいたりね。そういう思い出はありますよ」 しかし、時代が変われば人間関係の在り方も変わる。近ごろではアルバイトなどで時間的な余裕がない学生が多く、中には疲れてしまって下宿にいるときは寝ているだけという人もいるとか。プライバシーが少しでも侵されるのを嫌う人もいる。生活様式が多様化したことで、かつてのような濃密な関係は築きにくくなったのかもしれない。それでも「お金をいただいてそれっきりっていう関係ではないですね」と辻井さんは言う。 「18才くらいで地方から出てくると、皆さん不安ですよね。親御さんも。だから、私の役目は母親代わりとまではいきませんけど、フォローっていうかね、何かあったときにケアをしてあげることですね」 一方、同じ屋根の下で暮らす者同士、良好な人間関係、生活環境を維持するためには、まさに親代わりのように良いことは良い、悪いことは悪い、と言わなければならないときもある。学生は「お客様」ではあるが、誠意を尽くして接する辻井さんの言葉だからこそ、本人もそのご両親も納得する。そのためか、皆に迷惑をかける人はめったにいないとのこと。 「世の中に出ると、仕事もさることながら、やっぱり周りの人とうまくやっていくっていうことが一番重要だと思うのよね。その点、ここにいる学生さんは、階段でいうと1、2段上がれたかなっていう感じがするの」 時とともにスタイルは変わっても、学生に対して親身に接する心は代々変わらない。 ■宏明館 新宿区西早稲田2-19-27 (2007年6月28日掲載) Copyright (C) 2007 Student Affairs Division, WASEDA University. All rights reserved.First drafted 2007 June 28. |