特集

もう一度、考えてみよう
あなたの回りにあるハラスメント


  「ハラスメント」が社会的な問題として日本で認知されるようになって久しい。実際本学にも「早稲田大学ハラスメント防止に関するガイドライン」が制定されている。それによれば、ハラスメントとは、性別、社会的身分、人種、国籍、信条、年齢、職業、身体的特徴等の属性あるいは広く人格に関わる事項等に関する言動によって、相手方に不利益や不快感を与え、あるいはその尊厳を損なうことをいう。つきつめてみれば、ハラスメントとは身近でかつ深刻な人権侵害なのである。

 今回は、大学において見られるさまざまなハラスメントについて、そしてそういったハラスメントをどのように解決していくかについて、ハラスメント防止委員会教育研修部門の幹事をしておら れる法学学術院の弓削尚子准教授にお話を聞いた。


▲ハラスメントのパンフレットは、日本語版だけでなく英語版も作られている。

 本学のハラスメント防止に関するガイドラインは、大学における優越的地位や指導上の地位、職務上の地位、継続的関係を利用して、相手方の意に反して行われ、就学、就労や教育研究環境を悪化させるハラスメント全般を取り扱うものである。大学において見られる一般的なハラスメントとしては、
■性的な言動や行動による
 セクシュアル・ハラスメント
■勉学・教育・研究に関連する言動や行動による
 アカデミック・ハラスメント
■優越的地位や職務上の地位に基づく言動や行動による
 パワー・ハラスメント
の三種が挙げられる。これらはハラスメントがどのような場面や状況下で起きるかによって分類されるが、実際には複合的に絡み合うことも多々あるという。それではここで大学に見られるこれら三つのハラスメントをより詳しく説明しておきたい。

被害者にも加害者にも成り得る セクシュアル・ハラスメント

 「まず耳にするハラスメントの多くは、男女の性役割を押し付ける言動、すなわちジェンダー・ハラスメントですね。ただ、なれなれしく必要以上に身体に触れてくることや、ストーカーまがいのことを行うようなセクシュアル・ハラスメントも、実際キャンパスでは起こっています」
と弓削先生は指摘する。やはりハラスメントを感じるのは女性が多いようだが、逆の場合ももちろんある。

 「些細な例えですが、合宿でご飯をよそおうとした男子学生に、『それは女性の仕事だから』と女子学生がしゃもじを取り上げてしまうような場合が、それにあたりますね」

 もちろんこの事例で、男子学生が何も疑問に思わなければハラスメントにならないが、「これって何かおかしい…」と彼が釈然とせず、不快感すら覚える場合には、ハラスメントになるという。

 つまり事例によっては、ハラスメントと感じる人もいれば、感じない人もいる。それだけ複雑な問題なのだが、どんな些細なハラスメントでも積み重なれば、深刻な事例の誘因になりかねないことも確かだ。

 「セクシュアル・ハラスメントは、実は、男女共同参画問題にもからんできます。男女の性別を問わず、心地の良い環境で学び活動できることが重要なのです」

 サークル活動でお弁当を買いに行かされるのは、いつも女子学生、「それって男らしくない」と女子学生がふともらす言葉…。授業中に猥談をして学生に不快な思いをさせる教員の行為も当然ハラスメントである。

 セクシュアル・ハラスメントは、誰でも加害者に成り得るし、被害者にもなる可能性があるということでもある。

教育現場で高い地位にある人が行う アカデミック・ハラスメント

 大学という特殊な環境下で特に注目されるのが、アカデミック・ハラスメントである。

 これは、権威的または優越的地位にある教員等が、意識的か無意識的かには関係なく、その優位な立場や権限を利用して、その人の指導等を受ける者の研究意欲および研究環境を著しく阻害する教育上不適切な言動、指導または待遇を指すものだ。

 例えば、教員同士であれば、研究妨害や昇任差別、退職強要などが考えられる。一方、教員と学生または大学院生の間であれば、指導教員からの留年の強要、指導の拒否や差別行為、ひどい場合には、学位の取得妨害、就職上の指導差別、公平性を欠いた成績評価などが考えられるという。

 「具体的には、昇任審査や学位審査、研究指導で、特定の人を差別して、必要以上に厳しい条件を課すこともそうですし、普通の指導を超えて人格を否定するような言動を繰り返すことなどが挙げられます。」
と弓削先生は補足する。

 ただし、教育上の指導は、指導のあり方が多様であるだけでなく、指導を受ける側の一人ひとりの感じ方や微妙なニュアンスの違いもあって判断がむずかしいケースもあるとのこと。また指導する側が自分はアカデミック・ハラスメントを行っているという意識がないことも特徴的問題らしい。

 しかし、教育現場においては、指導する側と指導を受ける側との適切なコミュニケーションが成立していることが必要であることを考えると、指導を受ける側、つまり弱者の立場から何らかの異議申し立てをする機会を設けることが不可欠である。

 実は、発足当初は「セクシュアル・ハラスメント情報委員会」としてスタートした組織が、2005年に「人権教育委員会」と統合して「ハラスメント防止委員会」になったのも、アカデミック・ハラスメントについてもきちんと扱うことのできる組織の必要性を大学が認識したからだという。日本の大学の中で、早稲田はハラスメント問題に早くから取り組んだ大学だといえる。

職務上の上司が引き起こす パワー・ハラスメント

 このハラスメントは、いわゆる職場で起こるものであるので、学生や大学院生には関係ないと思われがちだが、先輩・後輩との関係やアルバイト先での関係など、学生もある程度理解しておいた方がいい。

 パワー・ハラスメントとは、職場において職務上優位な地位にある人、つまり上司がその部下に対して行う不適切な言動や指導、待遇のことで、それによって部下の就労意欲や就労環境を害することを指すという。

 「例えば、何か意見を言うと『文句があるならいつでも辞めていい。君の代わりはいくらでもいる』という言葉の上でのハラスメントもありますし、多くの人の前で罵倒したり仲間はずれにしたりすることなども、かなり深刻なパワー・ハラスメントです」
と弓削先生は説明する。

 このほか、明らかに悪意から昇進や昇給を妨害したり、本人の嫌がる部署に意図的に配転するなど、職務権限に基づく行為もパワー・ハラスメントの例として挙げることができるという。

 ただし、教育訓練の意味で職務上行われる指導とパワー・ハラスメントとは区別しなければならないし、一人ひとりの感じ方や微妙なニュアンスの違いもあって判断がむずかしいケースもあることは確かだ。しかし、教育訓練の名のもとに、感情的な言動や憂さ晴らしとしての言動は許されるものではないし、たとえそれが教育的指導としての言動であったとしても、相手の人格やライフスタイルを否定するものであってはならない。

複合的なハラスメントの 事例紹介

 いくつかの種類のハラスメントが複合的にからみあった事例もあるという。

 「例えば、『女性は研究者に向かない』と言われ、男性と同じようにきちんと研究指導をしてもらえなかった場合のことを考えてみてください」
と弓削先生は説明する。このケースは明らかに「女性」をターゲットにしている点で、セクシュアル・ハラスメントである。その上、教育・研究上の不適切な指導であり、相手の研究意欲と環境を阻害しているという意味では、アカデミック・ハラスメントでもある。

 このように、誰にでも分かるハラスメント事例もあるが、感受性には個人差があり、同じ行為をまったく気にしない人もいれば、心に何らかの傷を負う人もいる。気になる人が一人でもいれば、それはハラスメントの可能性があると考えるべきだろう。

 悪意がなく、認識不足でハラスメント行為をした場合には、素直に自分の非を認めて謝罪し、二度と同じ行為を繰り返さないことが大事だ。このような自省と行動の改善の積み重ねが、ハラスメントのないキャンパスをつくり上げていくことになる。

困ったときは一人で悩まず まずは相談窓口を利用しよう


▲ハラスメント防止委員会の活動や相談に関する詳細については、Webページをぜひ参照してほしい。早稲田大学のトップページから「在学生の方」を選択すると、学生生活についての項目に「ハラスメント防止」という項目があるので、ここからアクセスできる。
【URL】http://www.waseda.jp/stop/

 ハラスメント防止委員会の活動の柱は、
(1)防止のための諸活動
(2)被害者の救済、問題解決のための相談対応
である。(1)については講演会の開催や教職員に対する教育研修などのほかに、パンフレット制作などの広報活動である。

 重要なのは(2)である。ハラスメント防止のための諸活動にもかかわらず、問題が起きてしまった場合に、その解決に向けて最善策を導き出していくために設けられた相談窓口である。もしもハラスメントに遭遇したと感じた場合は、一人で悩まず、気軽にハラスメント防止委員会の相談窓口を利用してほしい。

 相談窓口には、インテーカーと呼ばれるプロの心理相談員が常駐していて、ハラスメントに関するあらゆる相談に応じてくれる。当然のことながら、防止委員会のメンバーやインテーカーには厳密な守秘義務があり、相談内容が外に漏れることはないので、安心して利用してほしい。

 相談の流れは、次の通りである。

■ 電話やメールでの相談
  相談窓口では、電話、メール、ファックス、手紙による相談も受けている。この段階では匿名での相談でも構わない。とにかく自分の素直な気持ちを聞いてもらうことができるので、この段階で解決の糸口が導き出されることも多々あるという。
■ 来所による相談
  電話やメールで相談する中で、きちんと面談したうえで、じっくりと解決策を模索した方がよいと相談者本人が判断した場合は、事前予約をとった上での来所相談となる。予約制なので、他の相談者と鉢合わせすることはない。ここでもインテーカーが相談者の思いを聴く。この段階で気持ちの整理がつき、納得できる解決策が見えてくるケースもある。
■ 苦情申し立ての提出
  相談だけでは納得できず、相手に何らかの対応を求めたい場合は、申立書を提出し、苦情申し立てをすることができる。ハラスメント防止委員会はガイドラインに基づき、苦情処理案件として対応可能であれば、迅速に対応する。
■ 苦情処理
  苦情処理の対象案件と判断された場合は、調整手続きによる具体的な解決策の検討に入る。調整では、公正な立場の調整委員が相談者、相手方双方と個別に面談を行い、事実確認を行った上で、相手方に申立人の要望を伝えながら、当事者双方の関係を調整する。その結果、状況が改善され、相談者が納得すれば、解決となる。
■ 必要に応じて学内各種手続き
  以上のような手続きとは別に、防止委員会は、ハラスメントが重大かつ懲戒処分を行うことが適当だと認めたケースについては、加害者・当事者の所属する箇所長に対して、処分の勧告をすることができる。
■ 相談者の保護が大前提
  以上のプロセスにおいて苦情申し立てを行った相談者が、相手方から脅迫、威圧、報復などの不利益な扱いを受けることのないよう防止委員会は厳格に対処し、相談者を保護する。またそのような不当行為があった場合は、防止委員会が厳格に対処する準備がある。

ハラスメント防止委員会室(相談窓口)

169-8050 新宿区戸塚町1-104 早稲田大学
西早稲田キャンパス 24-8号館2階
開室時間:
 月〜金 9:00〜17:00
 土       9:00〜14:00
*来室前に必ず電話で予約をしてください。
TEL:03(5286)9824 *留守番電話機能つき
FAX:03(5286)9825
E-mail:stop@list.waseda.jp URL:http://www.waseda.jp/stop/


(2007年6月28日掲載)

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First drafted 2007 June 28.