進路選択物語

道なき道―演劇を創る、 人生を創る―


演出家・劇作家・NICK-PRODUCE主宰 村野 玲子
(2003年政治経済学部卒業)

筆者が脚本・演出を担当した野外劇『electra.』。2005年10月に一橋大学兼松講堂前で上演
▲筆者が脚本・演出を担当した野外劇『electra.』(原作・ソフォクレス「エレクトラ」)。2005年10月に一橋大学兼松講堂前で上演

 大学には8年いた。卒業して5年。いまだなお「成功」とされるものはこの手に一切なく、果て無き道の途中である。アルバイトをかけもちして、生活費を稼ぐ。風邪を引き寝込めば収入が下がる。辛くなり辞めれば、明日からの生活に即響く。実家の敷居はまたげない。友人らは次々に結婚をし、マンションを買い、子供をつくる。盆暮れ正月は、独り酒を飲みつつ過ごす。それでもなお、今の生活を幸せと感じることができる。なぜか。

 舞台があるからである。

 学生時代の9割を、演劇に費やした。稽古場か、劇場か、居酒屋が、基本的な居場所だった。後悔はない。必要があると思ってやっていたから。切実なまでの飢えがあった。より深く演劇を知りたい、自分の体に叩き込みたい。芸の肥しになると思えば、どんなことでもやった。

 中高時代は、部活でミュージカルをやっていた。その中で、主に演技が印象の核を成した。だから、大学に行ったら演劇をやろうと考えた。入学してすぐ、大隈講堂裏の劇団木霊アトリエの門を叩く。新鮮な日々―汲めども尽きぬ好奇心の泉が、堰を切ったように溢れ出る。こと演劇に関する限り、その泉は未だ枯れることはない。演出と劇作を手がけるようになった今、貪欲さはただ増す一方である。

 就職活動はしなかった。やりたいことを手放してまで進むべき道が、自分に思い当たらなかったから。仕事と両立すれば、とよく言われたが、演劇を生涯の生業としたい私にとって、そのアドバイスはよく意味がわからなかった。金を稼ぐだけなら、アルバイトで十分だ。就職とは、ある目的をもった社会に参入し、所属することだ。私は演劇制作を核とする社会から離れるつもりは毛頭ない。日々の稽古こそが、次の舞台につながる就職活動に他ならない。だから、未だなお就職活動の只中にある。果て無き道、終らぬ旅。目的地すら時々で変わる。辛くもあるが、楽しいことこの上ない。

 「選択」すべき既成の「進路」などない。荒野の中、自らの足で地を固めつつ、道なき道を進む。結果、足跡が「物語」となる。これはどこの社会にあっても同じだろうと思うが、いかがなものか。

(2007年5月24日掲載)

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First drafted 2007 May 24.