先輩に乾杯!

文系と工学系の壁を乗り越えて語彙研究を続けている
神崎 享子 さん


 巡ってきたチャンスをしっかりとつかみ、文系と工学系との融合という新しい学問分野へと足を踏み入れていった今回の先輩は、独立行政法人情報通信研究機構(通称NICT)の一員として言葉の研究をしている神崎享子さん。内定を取りつけながらも直前で就職をやめ大学院に進んだ神崎さんに、これまで歩んできた道について伺った。


かんざき・きょうこ
 独立行政法人情報通信研究機構 知識創成コミュニケーション研究センター 自然言語グループ研究員。1998年早稲田大学大学院文学研究科博士課程日本語日本文化専攻単位取得退学。98年郵政省通信総合研究所(現NICT)特別研究員。2001年神戸大学大学院自然科学研究科にて博士号取得。05年からNICTの常勤職員として、主に自然言語処理技術を用いた語彙研究に従事している。
【URL】http://www2.nict.go.jp/x/x161/

「このままでいいのか…」と内定を蹴って決めた進路変更

 学部での専攻は西洋史。ごく普通の大学生だった。「入学した当初は、日本と外国との橋渡しをするような仕事につきたいと思っていました」。だが周囲が就職活動を始めると、神崎さんもはっきりとした目標を見つけられないままに企業訪問を重ね、ある企業から内定をもらうところまで行きついた。しかし「本当にこのままでいいのだろうか」と疑問をぬぐえずにいた。時は日本語教師ブーム。やがて外国人に日本語を教える仕事なら夢が果たせるのではないか、と思うようになっていた。せっかく取りつけた内定を断り、思い切って日本語教師養成講座に通うことに。「その時の講師が早稲田大学の岩淵匡教授で、日本語教師になるならきちんと日本語学を学ぶべきだから、大学院へ進むようにとアドバイスを受けたんです」。当時本学では、文学研究科日本語日本文化専攻が新しくできたばかり。神崎さんは、迷うことなく大学院に進学した。

学問の世界に引き込まれて博士課程へ

 修士課程を終えたころには、学問の魅力にすっかりとりこになっていた。「先輩たちから『研究されていない分野がたくさん残っている』と洗脳されてしまって(笑)」。このころから「語彙論」というテーマに没頭していった。語彙論とは、われわれのもつ言語知識の中で、語がどう使われているか、語全体がどう有機的に関係しているか、語の意味をどのように理解、生成しているかを探求する学問である。単語の集まりである語彙を扱う研究は、膨大なデータを扱う世界。当時はパソコンが普及し始めていたころで、博士課程に進学した神崎さんも計算機を活用する必要性を感じていた。「ちょうどその時、情報科学研究教育センター(現メディアネットワークセンター)でTA(teaching assistant)を募集していたんです」。TAは理工系の学生が多く、計算機の基本的な使い方やデータの加工の仕方を教えてもらったという。文系の研究だが、理工学部の大型計算機でデータと格闘する日々が続いた。早稲田の博士課程を3年で単位取得退学後、神戸大学大学院の自然科学研究科において2年で学術の博士号を取得した。

必要なのは、最初の一歩を踏み出す勇気

 順調に歩んできたように見える神崎さんだが、挫折がなかったわけではない。初めて論文発表した時には、出身学部が言語学や国語学でないことがマイナスに働いたこともあった。出身学部の違いは遅いスタートを意味する。だが当時所属していた研究室の森田良行教授が、落葉した並木の中で1本だけ燃え立つように紅葉している木を見上げて、「見てごらん、木によって紅葉する時期が違うんだよ」と暗に励ましてくれたことを今でも覚えているという。長く研究を続けていれば、出身学部は問われなくなる。言語学という文系の学問と計算機処理という工学系プロセスの融合で、言語学の分野で新しい研究をすると神崎さんは決心する。

  チャンスは再び訪れた。NICTの前身である郵政省通信総合研究所に特別研究員の募集があるという話が来たのだ。何事も一所懸命やっていると、情報が集まってくると神崎さんは強調する。「先生や先輩とのつながりを大切にしてきたからこそ、今の私があると思っています」

  自分の道は自分で選ぶ。要は何かしたいことがあったら、具体的な一歩を踏み出す勇気をもつこと。したいことが見つからない時は、目の前にあること、できそうなことをまずやってみる。若い時だからこそ、思い切って未来へと踏み出してほしい。それが神崎さんの後輩へのアドバイスだ。

(2006年11月30日掲載)

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First drafted 2006 November 30.