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第43回文藝賞受賞!
荻世 いをら さん



おぎよ・いをら
 1983年京都府生まれ。日本大学三島高校卒業。第二文学部5年。表現・芸術系専修。2006年10月、第43回文藝賞を受賞。受賞作『公園』を 河出書房新社より11月に上梓。

 「ちゃんと書いたら残れるかもしれん」。2年生の時にとった「創作指導」の授業で、作家の辺見庸先生に言われた言葉だ。作家としてデビューできてもその世界で残っていける者は少ないが、荻世さんならそれができるかもしれないのだという。「授業の選考のときに提出した作品をそう評価してもらって。ほとんど小説は書いたことがなかったので、『みんなに言っているんだろう』と、あまり真に受けていませんでした」。しかしそれから3年後、見事、文藝賞を受賞。先輩作家の辺見先生には先見の明があったと言えよう。

 小説は大学から始めたが、映画の脚本は以前から書いていた。今年7月には自身が監督した作品がフィルムフェスティバルで入選。「いかに純粋に自分を出せるか、一番フィットしたやり方を常に模索しています」。この「自分を出す」という作業が想像以上につらいのだそうだ。「自分の弱さと向き合う作業ですから。でも小説にしろ映画にしろ人を真に理解して描くためには、まず自分の生い立ちや性質を誰とも比較せずに受け入れることが必要だと思います。よく『あいつには才能がない』とか簡単に言ったりする人もいますが、才能がない人なんていません。例えば育ってきた環境、名前などは人によって違うもの。それはれっきとした個性であり、つきつめれば表現になり得るんです」

 そうやって自分を見つめて葛藤した先に、ふっと力が抜けて表現が生まれる瞬間があるのだとか。「意識し続けた後に訪れる無意識のようなものですね。つらい作業ですが、それでもものを作るのはその先に希望を見出しているからなんです」。また、自分を見つめる作業を重ねた分だけ荻世さんの他者に対するまなざしは優しい。頭ごなしに否定せず、「それぞれの生い立ちや環境は違うのだから」と、相手の個性を受け止めようと意識している。「ものを作ろうとしたおかげでそう思えることができて良かったです」。彼の思いが詰まった渾身の受賞作、ぜひ手にとってその温かさ、深さを感じ取ってほしい。

(2006年11月30日掲載)

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First drafted 2006 November 30.