わせだかいわい

早稲田古本屋街「古書現世」店主 向井 透史さん


向井 透史さん
▲向井 透史さん

▲バラエティに富んだ本

▲「古書現世」

 早稲田通りには、たくさんの古本屋がある。30ほどの店が軒を連ねているのだが、その歴史は、遡ること明治35年(1902)、早稲田大学創立20周年を迎えたころに始まった。当時は、早稲田大学正門から神楽坂へと延びる道に古本屋街が立ち並んでいた。しかし、昭和20年5月25日の空襲により古本屋街も消失してしまったのである。その後、焼け残った早稲田通り沿いに若い古本屋が開店していき、現在のような早稲田古本屋街を形成していった。

 最近、この早稲田古本屋街の歴史をまとめた本が出版された。著者は早稲田古本屋街に店を構える古書現世の向井透史さんである。本のタイトルは、そのものズバリ『早稲田古本屋街』(未來社刊)。焼け野原になったところから古本屋が再生していくまでを取材を通し詳しく書きまとめている。執筆するきっかけはというと、先代が始めた本の通信販売で購入したお客様に送る小冊子作りを手伝ったことだという。小冊子の表紙の裏で、人気のある本の紹介や店で起きた出来事などのエッセイをつづっていた。「文章を書くのは、何かメッセージを伝えようとするものではなく仕事の延長ですよ」とおっしゃるが、『早稲田古本屋街』には、仕事の延長というだけでなく、早稲田で生まれ育った向井さんの思い入れも感じられる。

 今では、立派な二代目になられた向井さんだが、家業の古本屋の道に入ったのは18歳のころ。「最初は、高校を卒業してやりたいことが見つかるまでのアルバイトのつもりで始めたんです」とちょっと照れくさそうに語る。「家業を継いでから最初に、わけもわからず古本市というところに修行に行かされたんですよ」。古本市には、都内はもとより埼玉など近隣の県の本屋も買い付けに来ていた。そこでは、本の買い取りが入札制となっており、値段の付いてない古本に目利きの店主たちが次々と値段を付けて入札していく。向井さんはその取りまとめの仕事をしていて、店主たちが付けた本の価値を知ることができたという。古本の値段というのはあってないようなもの、店主が付けた値段にお客さんが納得して初めて取引が成立するのであるから、適切な本の価値を覚えていくのは古本屋にとって必要不可欠なことである。しかし、古本屋にふらっと立ち寄ったときに、思いもしない安い値段で欲しい本が売られていることがあり、たいへん驚かされることがある。向井さんいわく「古本屋は、お客さんに『この本屋は、本の価値を知らないな』と思われるくらいでいいんですよ」とおっしゃる。「値段は安く付いているけれど、店主は本の価値を知っているのかいないのかと考えさせるところが楽しみなんですよ」と笑顔で語った。古本屋の主人とは、粋な商売人である。

 向井さんの店は、早稲田通りの西早稲田バス停の先にあるので、早稲田の学生も多く訪れる。どんな本を選んでいるのかと聞いてみた。太宰治などの正統派の書籍を選ぶ学生もいるそうだが、どちらかというと女性の方が文学にもう一歩踏み込んだ作品を選んでいくと感心されていた。

 向井さんは、早稲田古本屋街を活性化させようといろいろな取り組みもされている。早稲田青空古本祭りや早稲田正門前での古本市などでも地域との交流を図っており、地域が活性化することにより「早稲田を卒業した人たちが戻ってくるきっかけになれば」という。その一環として、「いつか早稲田古本屋街と学生とで、古本に関するコラボレーションができたらいいな」という思いがあるのだという。

 早稲田古本屋街に新しい風を吹き込む向井さん。いくつかの企画のうちの1つだが、今冬、早稲田駅前交差点近くにオープンする古本屋の店内で、複数店舗による合同古本市の開催を企画しているそうだ。

(2006年11月16日掲載)

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First drafted 2006 November 16.