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学生の視点からキャンパスでのハラスメントを考える


 2005年4月にそれまでの「セクシュアル・ハラスメント情報委員会」を改組、継承する形で新たに発足した「ハラスメント防止委員会」(以下、防止委員会)では、ハラスメントのないキャンパス作りを目指して、予防のための啓発活動、問題解決のための相談対応を柱に活動を行っている。

  これまで防止委員会が取り組んできたものに、リーフレットやポスター、Webによる広報活動、ハラスメント問題を考える講演会の実施、教職員への研修やアンケートによる実態調査などがある。さらに昨秋には、初めて「学生の視点からキャンパスにおけるハラスメントを考える」という画期的な試みを行った。今回、その試みに有志メンバーとして関わった学生たちに活動の経緯、そしてそれを通して彼らが感じたことを語ってもらった。実は彼ら自身もこの活動に関わる以前は大半の学生同様、防止委員会の活動をほとんど知らず、ハラスメントを意識することもない日常を送っていたという。

聞き取り調査で等身大のハラスメント体験を知って

昨秋のフォーラム・シアターの模様
▲ 昨秋のフォーラム・シアターの模様(ハラスメントが横行するサークルでの飲み会の場面:右から2番目でいじられているのが杉本さん、右端でいじっているのが西澤さん)

 昨年11月1日、「オール早稲田文化週間」の企画の一環として、大隈小講堂で開催された「Forum Theater みんな知ってるキャンパスセクハラ でもどうしたらいい?」(早稲田大学ハラスメント防止委員会主催)。これは、パフォーマンス・グループ『フォーラム・シアター・フォー・エンパワーメント』と第一文学部教育学専修の学生有志のコラボレーションによる、セクシュアル・ハラスメントをテーマにした参加型演劇だ。 まず、キャンパスを舞台に起こるハラスメントの色彩の濃い出来事が未解決のままに終わるというストーリーを学生たちが演じる。それを観て舞台上の役者の言動に違和感を覚えた観客がその展開について、「こんなとき、自分ならどうするだろう」、「相手にはどうしてほしいだろう」と考える。そして、再度上演する劇の途中で、進行をいったん止めて、「その行動や発言に異議あり! 私ならこうする」と意見を出す、あるいは実際に舞台に上がって役者に代わって思うとおりに演じるというもの。それによって、事態は解決に向かったり、それでも完全には解決できなかったり、展開はさまざま。しかし、その展開の中で問題と思える箇所を発見し、それを動かしていくヒントが参加者の中に芽生えることを意図しているのだ。

  フォーラム・シアターとは、演劇を通して観客と共に考え、問題を共有し、討論する手法。「現実を変えるためのレッスン」を行う共同作業の「場」とも言える。

  手法の指導を受けながら、ストーリーを作り、シナリオを書き、アドリブも交えながら、自ら演じたのは、第一文学部教育学専修 村田晶子ゼミ、ジェンダー班の有志6人。ハラスメント問題に詳しい村田先生の影響を受け、もともとジェンダー問題を研究テーマとしていた彼らが、防止委員会からの参加協力の呼びかけに快く応じてくれたのは昨年7月上旬のことだった。

  一般の学生が抱くハラスメントに対する問題意識とはどのようなものか。筋立てとシナリオを作るにあたり、まずは聞き取り調査から開始した。クラスやサークルの仲間や先輩、後輩に「キャンパスで起こり得るハラスメントにはどんなものがある?」と片っ端から聞いて回った。集めた意見を集約した結果、次の三本の柱を立てることになった。

  1. 同級生や先輩による、悪意のない軽い気持ちでの言動の積み重ねに不快感や疑問を覚えるケース
  2. 卒論指導教授とのギクシャクした関係に悩むケース
  3. サークルでの先輩・後輩という上下関係につけこんだ心ない言動、男らしさや女らしさに対する偏見的発言に不快感を覚えるケース

  聞き取り調査を通して、まさに等身大のハラスメント体験を知ることになった。 秋の本番に向け、夏休みを利用して皆で集まり、ストーリー展開を考え、シナリオを作り上げた。

擬似体験で自らの言動を振り返るきっかけに

西澤たかせさん
▲ 西澤たかせさん(一文4年)
 もともとは家族問題に興味があったが、ジェンダー問題に関心がシフト。「女性が男性に比べて劣る要素なんてありえない!」。それを卒論で実証したいと意欲満々だ。
杉本泰章さん
▲ 杉本泰章さん(一文3年)
 男性の家事労働問題に関心を持ったきっかけは、反面教師だった父の姿。家事をこなせる男に仕込んでくれた母に感謝しているとか。

 「でも、実際は後期になって舞台練習を重ねる過程で、ああでもない、こうでもないと議論しながら変更を加えていったんです」。当時、ゼミの幹事長として活動をリードした西澤たかせさんは語る。「私たちは、観客の皆さんに『これは問題だよね』という意識を喚起させることを狙って、わざと突っ込みどころ、つまりNGとされる言動をふんだんに盛り込むシナリオにしていくんですが、このプロセスが結構つらかった」

  ハラスメント問題は自分にとっては身近なものではないし、普段は他人事のような気がしていたという彼女は演じるうちに、自分の中で知らず知らずのうちに見過ごしてきたハラスメント体験が思い起こされ、思いがけず口をついて出たアドリブに驚かされたり、『こんなハラスメント発言はできない』と台詞との葛藤に苦しんだりしたという。

  有志メンバーの一人、杉本泰章さんもこう振り返る。「まさに感情移入をしてしまうというか、ハラスメント被害を受ける学生の役を演じていると、本当に被害にあっているような気分になって、落ち込んでしまったり、言い返したいけれどもそれができないという気持ちになったりしました。でも、そのおかげで『普段自分もこんなことをしてきて、相手を傷つけていたのかもしれない』と、反省させられたりしたことも事実です」

  彼が演じたのは、サークルの飲み会で同学年の女子に「男のくせにピンクのTシャツを着るなんて、キモイ! それに腕が細くてなよなよしすぎ! お酒も飲めないなんて男らしくない!」と執拗に責められる男子学生。「幸い日常生活の中ではそんな体験はないんですが、逆に自分が女性に対して役割意識とかを持っていたかな、と反省しました」

  「被害者の立場に身を置く疑似体験によって、それまで自分とは無縁と思っていたハラスメントの問題が、実は身のまわりで起こっているのに、単に見ないふり、気付かないふりをしてきただけではないのかという気持ちになりました」と、自らの行動を省みる西澤さん。

周囲の意識と行動を変えるために私たちに何ができるか?

 「もちろん、自分は他者に対してあんなことはしないという気持ちはある。そして、他者に対するハラスメント行為を見て『嫌だな』と思う気持ちもある。でも、それに対して『やめなさい!』と言って被害者を守ってあげることが果たして自分にできるかというと正直、自信がない。仲間同士の付き合いの中で一番タブーとされるのは『空気の読めない奴』。みんなが盛り上がっているときにその場の雰囲気を壊すのは相当な勇気が要るし、なかなか踏み出せない。自分からはやらないけど、他人の言動を止めることは結構むずかしい。私たちのように被害者の気持ちを疑似体験すれば、すぐに言動を改めるんじゃないかなと思う人はいるけど、なかなか難しいですね」

  空気が変われば、逆にハラスメント行為をする側が『空気の読めない奴』に変わるのではないだろうか。そんな意識改革を巻き起こすにはどうしたらいいのだろうか。 観客としてでもいい。一人でも多くの人にフォーラム・シアターに参加して、擬似体験をしてもらえたら、状況は変わるかもしれない。そんな気持ちで、今年の秋に再びフォーラム・シアターを開催できないかと二人は考え始めている。


  ハラスメントは加害者と被害者だけの問題ではない。その状況を周囲が傍観することで、被害者はさらに傷つき、人間不信に陥る可能性がある。周囲の人がどのように対応するかで、展開は大きく変わる。加害者を変えるのは難しいが、周囲の言動を変えることによって状況は変わる。ハラスメントの場面では、まさに「周囲の対応がポイント」。6月29日に開催される講演会では、その点にポイントをおいた興味深い講演が予定されている。『男性学』という学問分野の研究者から、どのような具体的かつ実践的な話が聞けるか。ぜひとも多くの学生、教職員の皆さんに足を運んでほしい。

ハラスメント防止委員会事務局
 【URL】http://www.waseda.jp/stop/


Stop Harassment! 講演会のお知らせ

「セクハラの起きやすい環境、周囲の対応がポイントだ」

日 時: 6月29日(木)13:00〜14:30
場 所: 西早稲田キャンパス8号館B107教室
対 象: 本学学生・教職員、一般の方 (予約不要・入場無料)
講 師: 細谷 実(ほそや・まこと)氏(関東学院大学経済学部教授)
【講師プロフィール】
 哲学、倫理学、ジェンダー論専攻。
 主要著書:『性別秩序の世界』『<男>の未来に希望はあるか』
 共訳書 :『男のイメージ』『ジェンダー研究の50の基本概念』(仮題)
【問い合わせ】 ハラスメント防止委員会事務局
 【TEL】03(3204)9068
 【URL】http://www.waseda.jp/stop/

 ハラスメント防止委員会では、セクシュアル・ハラスメントだけでなく、大学という組織風土の中で発生しやすいアカデミック・ハラスメント、職場で起こりやすいパワー・ハラスメントについても対象とし、防止活動、相談対応を行っている。一人で悩まず、いつでも気軽に相談してほしい。

ハラスメントは人権侵害です 人権を侵さない・侵されないために あなたにできることがあります 【相談窓口】ハラスメント防止委員会室 169-8050 新宿区戸塚町1-104 早稲田大学24-8号館2階 開室時間  月〜金9:00〜17:00 土9:00〜14:00 *来室前に必ず電話をしてください。 TEL 03(5286)9824 *留守番電話機能つき FAX 03(5286)9825 E-mail stop@list.waseda.jp URL http://www.waseda.jp/stop/

(2006年6月22日掲載)

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First drafted 2006 June 22.