研究室探訪

ドイツが香る研究室
 西早稲田キャンパス9号館
 商学学術院教授 原口 厚 研究室


原口先生
▲ 原口先生。手にしているのは国家公定価格が刻印されたスプーン&フォークと薄いナイロン製の買い物用袋。袋はいくつも種類があり、どれもかわいらしいデザイン
留学時代、月の途中で購入しても、1カ月分支払うシステムを知らずに購入した定期券。
▲ 留学時代、月の途中で購入しても、1カ月分支払うシステムを知らずに購入した定期券。
国家公定価格の印刷されたノート
▲ 国家公定価格の印刷されたノート
オレンジ色のクッションがソファーカバーと絶妙な調和を醸し出す
▲ オレンジ色のクッションがソファーカバーと絶妙な調和を醸し出す

  昼下がりの午後、先生独特の静かで軽くうねるような口調が室内に響く。研究室の書棚のすぐ手前に置かれたソファーには、ドイツ製のレトロな花柄のテーブルクロスがソファーカバーとしてかけられている。それが、壁に沿って、めいっぱいに置かれた大きな棚にひしめき合う洋書や和書とうまくなじんで、趣のある「教授の部屋」という雰囲気を醸し出していた。

  先生のご専門はドイツ語。「学生時代に英語が苦手でね。皆と同じことをするのが嫌だったし、響きの美しいドイツ語を習得しようと思って」。学生時代は、早稲田と語学学校のダブルスクール。その後、留学した時に受けたカルチャーショックは、ドイツに対する新たな探究心を芽生えさせた。

  「ベルリンの壁崩壊のその時、ちょうどミュンヘンにいたんです。テレビで広報官が『西側への出国を許可する』と発表しているのを見て、語学的には分かったけれど『何のこっちゃ』という感じ。私たちは凝り固まった先入観を通して新しい物事を見ているんですね」。東ドイツの国境警備隊員と西ドイツの警官が談笑しているかつては想像もできなかった写真を見せてくれた。開いた壁の近くで先生が撮影したものだ。「当時、東ドイツで何の気なしに買ったノートが今では『文化財』になっちゃったよね」と、A5サイズのノートを手に取った。国家公定価格のため、値段は全て印刷されている。当時買った簡素なスプーンやフォークも今では歴史を物語る貴重な品となった。「日用品こそ、人々が使用する中で消えてしまうから」と大事に保管している。先生の思い出は、ドイツの複雑な歴史の変遷とともによみがえる。

  「例えば、キッチュで可愛らしい買い物袋は、今の若者にとっては単なる記号として『オシャレ』に映るかもしれない。でも、当時の人々にとってはそれしかない生活用品。遊びじゃなかったんですよ」。少し色あせた写真たちに、先生の目尻が少しだけ下がった。

(2006年5月18日掲載)

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First drafted 2006 May 18.