薦!

『寄生獣』 岩明 均 著
講談社 900円(税込)


気味の悪いマンガ

<評者>
加藤 典洋
(かとう・のりひろ)
国際教養学術院教授
1948年生まれ
2005年4月1日嘱任
担当科目(専門分野)Intellectual and Cultural History of Postwar Japan/
Contemporary Japanese Literature/ Japanese Written Expression (現代日本文学、戦後精神史・戦後文化史)

 進路選択に迷ったときに、あるいは大学の授業がつまらないと感じたときに、岩明均著『寄生獣』を読んでみることを薦める。異性にふられて悲しいときも、いい。

  この本を年長の尊敬する鶴見俊輔さんにお薦めしたのは、この人が「進路選択に迷っていた」からではなく単にこのマンガがすばらしかったからだが、氏は、次の機会にお会いすると、イヤー、徹夜しちゃったよ、と言われた。文学を含め、戦後のベストテンに入る、というのが鶴見氏の見立てで、私もそれに同感である。

  当時同僚の(注、本学でも同僚だが)竹田青嗣さんに薦めたときにも、やはり徹夜させ、それがもとで竹田さんは喀血。結核の疑いで1カ月ほど病臥した。しかし、竹田さんも、むろんおもしろいので徹夜してしまったのである。ちなみに、全10巻。

  一見したところ、とても「気味が悪い」。その不気味さの程度はこの推薦文が不真面目なものと受け取られかねないほどである。

  以前、愚息が小学生の頃、ふと覗いた彼の部屋にこのマンガが転がっていて、それを見たとき、私もとてもイヤーな気持ちがした。しかし、それから5年ほどして、これを読み、このマンガにいまの若い人が力づけられる理由がよくわかった。私も力づけられた。

  寄生獣というのは人間を食べる新生物である。中に、一人の寄生獣の女性が出てくる。最初の名前は田宮良子、後に再登場するときの名前は田村涼子。前者へのオマージュとして作家の阿部和重は『シンセミア』という小説の主人公格の家族に田宮の名をつけ、後者へのオマージュとして村上春樹は『海辺のカフカ』の主人公に田村の名をつけた、のではないかと私はひそかに踏んでいる。

(2006年4月27日掲載)

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First drafted 2006 April 27.