とっておきの話

議長はつらいよ


国際情報通信研究科教授 松本 充司

副議長席にて作業部会報告中の筆者
▲ 副議長席にて作業部会報告中の筆者

 ITU(国際電気通信連合)の国際会議では、通常議長から指名をもらってから発言する。この時発言者は議長に対して指名に対する感謝の意を込めて「Thank you Mr. chairman」で始める。発言の終了時にも再度使用する。この決まり文句は、国連標準の国際会議における公用語に限られており、その後に続く発言が何語になるのかの合図でもある。

  私が初めて国際会議に出席したのは1979年のことであった。5年後に分科会の議長を担当するようになってから、国際会議の議長が想定外の苦労を伴うものであることを体験することになった。

  あるテーマで米国とドイツの間で論争が起こり、意見の一致がみられず延々と議論が続いた。金曜日の夕刻まで会議を延長した時、英国の代表から「議長、私は5時に妻をロビーに待たせている。今夜レストランの約束があり、妻を合意させる方が大変だ。直ちに会議をやめてくれ」と発言があった。すると激しく議論していた代表同士を含め、出席者全員が拍手でその提案に賛成したのである。当時私はworkaholic時代の日本人として仕事熱心を示し、時間をオーバーしてでもまとめようと考えたのだが、逆に“議事がへただ”と思われたようである。

  そんな私にあるベテランの米国人議長が“コツ”を伝授してくれた。「ミツジ、会議は生き物なので、議長は笑顔を絶やさず、冗談をまじえ、会議が凍らないように雰囲気を作ることが必要だよ。適度にブレイクをとり、リフレッシュし、会議を時間内に終えることが重要だね」。彼の効果的なアドバイスのおかげで私は議長をクビにされずに済んだ。

  また、会議は「知的戦争」でもある。議長は着地点を探し、議論を収拾することが手腕であるが、着地点が見当たらない時は、「発言疲れで一瞬議論が止まる時を見計らって暫定的な議長案を示し『Any objection? Thank you. It was agreed』と決めればよい。皆が後で合意点の矛盾に気が付いたら、来年の会議でまたやればよい」。これも米国人議長が教えてくれた応用編である。ただ、これは相当な高等戦術で、このアメリカ流のテクニックを小心な私はまだ使えないでいる。

(2006年4月20日掲載)

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First drafted 2006 April 20.