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研究最前線
地震・災害から人命を救え! NPO「国境なき技師団」設立


 近年、世界的に大規模な自然災害が頻発している。災害の被害を最小限に食い止めるために、日夜、耐震設計などの試行錯誤が建設業界で行われている。一方で、昨年末には人災につながりかねない耐震強度偽装事件が社会問題となった。

  そんな中、地震、津波など大災害に見舞われた途上国の復興を支援する「国境なき技師団」(Engineers without Borders, Japan)というひとつのNPOが生まれた。その設立に尽力してきたのが、地震工学を専門とする濱田政則理工学術院教授だ。NPO設立の経緯、21世紀を担う技術者の使命について濱田教授にお話を伺った。

濱田政則理工学術院教授
■濱田政則(はまだ・まさのり) 理工学術院教授。博士(工学) 1943年生まれ。66年本学理工学部卒業後、東京大学大学院工学研究科修士課程を経て、大手建設会社に勤務。海底トンネルや原子力施設の耐震対策を担当。83年東海大学助教授を経て、94年から現職。2005年経済産業大臣賞ガス保安功労者賞受賞。06年より土木学会会長。『地盤・基礎構造物の耐震設計』等、著書多数。
現在のスマトラ島の様子
▲ 現在のスマトラ島の様子。被災地の多くが今も復興されず、住民たちの多くは自分の家があった場所にテントを張って生活している。

阪神・淡路大震災での涙。
 人命を守ることを考え続けた11年間

 崩れ落ちた高速道路の橋脚の一本足が眼の前にあった。愕然と言葉を忘れ、涙した。阪神・淡路大震災の挫折は今も心に残っている。犠牲者の多数は、住宅が倒壊しなければ助かったと言われている。「その反省が、頑丈だけれど基準を超えると倒壊するような建物を設計するよりも、犠牲者の少ない耐震設計、つまり、壊れ方に粘りのある構造物を作るという視点を生んだのです」。土木構造物の耐震基準の改正や、既存構造物の耐震補強。震災が生んだ大きな課題を一つひとつを解決していきながら、いかに被害を最小限に食い止められるかを、11年間考え続けてきた。

医療支援と共に切望された技術支援
 「国境なき技師団」設立へ

 研究と共に、地震、災害の被災地の状況をつぶさに見続けてきた。台湾、トルコ、インド、インドネシア、新潟…。国内外問わず足を運んだ被災地で、仮設住宅やトイレの提供、また道路、鉄道など社会的基盤・ライフラインの診断、補修など、多彩な面で土木・建築の技術支援が、医療面での支援と共に切望された。

  「一昨年の新潟中越地震でも車中での生活を余儀なくされ、約20人以上の人がストレス死で犠牲になっている。研究者としてロングスパンで自然災害の軽減に努めるだけではなく、技術者としての早急な支援が現地の復興には不可欠」。その思いから、土木技術者や建築技術者の集団が国内外の被災地を直接支援し、自然災害を軽減する活動展開を行うNPO「国境なき技師団」が設立された。

  「被災地の支援では他の学術団体やNPO等と連携して機能的な支援活動を行う必要があります。研究者、建設会社社員、学生など、あらゆる枠組みを越え個人の立場で参加できる組織にしていきます。また、早急できめ細かい支援には、政府レベルではなく、現地のNPOの力が不可欠。日本政府はODA等で莫大な資金を投入するだけでなく、NPO等への資金面の援助などを行わなければ、効果的な対応をしていると言えません。その面で政府との連携も検討していきます」

活動の柱の一つ、「防災教育」を学生組織「WASEND」がインドネシアで実践

 「国境なき技師団」の活動内容の柱の一つに防災教育がある。災害大国の日本では、昔から防災教育のための教材が教育現場で使用されているが、開発途上国では自然災害に対する知識と理解が不足し、災害時の不安解消や災害予防の妨げとなっている。

  一昨年のスマトラ沖の地震による津波の被災地を訪れた際、そのことを痛感した濱田教授が学生たちに話したところ、理工学部社会環境工学科の学生を中心に、学生ボランティア組織「早大防災教育支援会(WASEND)」が結成された。昨年9月に濱田教授や京都大学の学生と共にスマトラ島バンダ・アチェ市等の学校を回り、約3千人の子どもたちに、インドネシア語に訳した自作の紙芝居や絵本、クイズといった防災の教材で防災教育を実施した。

  WASENDはその後、東京の小・中学校でも活動を行った後、今年3月に再びインドネシアに赴き、現地の防災教育活動を続けている(詳細は「現場レポート」に掲載)。濱田教授は、「防災教育は継続して現地で活動を行うことが重要。子どもと年齢も近く、彼らの感性を理解できる点でも、近い将来、技術者として社会に貢献し得る学生に広い視野を養わせる点でも、WASENDの活動は効果的」と、期待を寄せる。

額に汗してモノ作りをし、社会に貢献する技術者たれ!

 企業の最前線の現場で技術を学んできた濱田教授は、学生に現場に出て実学を学ばせることをモットーとしている。「将来の技術者や研究者は、いかに社会に貢献できるのかを常に考えないといけない。学生たちにもチャンスを与え、実社会の中で生きた技術を学ばさせています。また、今後の社会でリーダーシップを発揮していく土木技術者には、専門知識以外にも自然、環境、経済など幅広い知識をしっかりと学んでおく必要があります。土木・建設は人の命に関わる技術。社会に貢献せんとする気概や自信を持って額に汗してモノを作る姿勢を学生時代に身に付けてほしいですね」


 国境なき技師団の活動内容

  1. 自然災害による被災地域の復旧と復興のための支援と提言
    自然災害によって被害を受けた住宅、建物および橋梁、港湾施設、河川堤防などの社会基盤施設の診断を行い、継続使用の可否を判定し、被災構造物の修復方法を提案する。さらに被災地の復旧と復興に関して技術者集団の観点より行政機関や地域住民へ提言を行う。
  2. 自然災害軽減化技術の普及
    住宅、建物、各種社会基盤施設と産業施設、ライフライン施設の健全度診断法と補強方法など自然災害による被害を軽減化するための諸技術を講習会の開催や図書出版等により広く普及し、社会の防災性向上に貢献する。
  3. 防災教育の実践
    防災教育のための教材を作成する。既存の防災教育教材と併せて各国語に翻訳し、継続的な防災教育を行う。また、防災教育のための指導者育成のための活動を展開する。
  4. 国際的防災研究の推進
    地震、風水害等の自然災害は多くの国々が抱える共通の課題である。大学、公的研究機関、民間研究機関の参画を得て、学協会が中核組織となって、国際的な防災研究を推進する。このため、留学生、研究員の相互交換、国際集会等を開催する。

 国境なき技師団と他の関連機関の協力関係



バンダ・アチェでの防災教育に参加して

理工学研究科修士課程2年 WASEND前代表 塚澤 幸子

地震防災ポスターを使っての防災教育の様子
▲ 地震防災ポスターを使っての防災教育の様子
子どもたちとの交流(後列右奧が塚澤さん)
▲ 子どもたちとの交流(後列右奧が塚澤さん)

 津波から9カ月後の現地は、復興がほとんどされておらず、当たり前のように瓦礫があり、テント生活を強いられる人が多数でした。津波を題材にした日本のアニメを上映した時に「なぜもっと早く教えてくれなかったの」と涙ぐむ子もいて、心の傷の深さを痛感しました。災害から身を守る最低限の方法を伝えようとしましたが、子どもと一緒に防災を考えていく姿勢が、防災教育に必要であることなど、逆に彼らから多くの気付きを与えてもらったと思います。

(2006年4月20日掲載)

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First drafted 2006 April 20.