世界見聞録

第8回 タンザニアと野生動物


平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)客員講師 岩井 雪乃

タンザニアの自然保護は誰のためか
 ―「人間と野生動物の共生」が「強制」になる時―

ゾウは自然保護の象徴となる動物。地元の人たちからも神として崇められている。
▲ ゾウは自然保護の象徴となる動物。地元の人たちからも神として崇められている。
かつての狩人。今では弓矢を持っているだけで逮捕されてしまう。
▲ かつての狩人。今では弓矢を持っているだけで逮捕されてしまう。
プロジェクトに参加した学生がゾウ被害にあった畑で聞き取りを行う
▲ プロジェクトに参加した学生がゾウ被害にあった畑で聞き取りを行う

 タンザニアのセレンゲティ国立公園をご存じだろうか。四国に匹敵する広大な面積が無人の動物保護区となっており、「人類の宝」として世界自然遺産にも登録されている。草食獣「ヌー」が何万頭もの大群で草原を駆けぬけ、川に飛び込んでいくシーンはテレビ番組でもおなじみだろう。

  そんな「野生の王国セレンゲティ」だが、周辺にはしっかりと人間が住んでいる。この人たちの生活はどんなものだろうか? 「狩猟をしながら、野生動物と共存している」そんな姿を想像するのではないだろうか? 答えはノーだ。そんな牧歌的な姿は、現代のタンザニアでは残念ながら成立しない。

  そもそもこの土地は、はじめから無人の「野生の王国」だったわけではない。50年前の英国植民地期に、住民を移住させて作り出された歴史をもつ。土地を追われた人々は、現在は公園の周辺に暮らしている。私が10年にわたってフィールドワークを続けているイコマ人も、土地を追われた人たちだ。

  イコマ人は、かつては農耕、牧畜、そして狩猟を組み合わせて、自然環境に適応した生活を送っていた。雨季は畑で穀物を耕作し、収穫が終わって乾季になると狩猟のシーズンだった。乾季はヌーの大群が村を通過する時期で、年に1度、この時期には嫌というほど肉を食べることができた。

  現在、狩猟は法律で禁止されてしまっている。どんなにたくさんのヌーやシマウマが村の畑を走っていようと、それを捕ることはできない。肉三昧の日々は昔話となり、今では密猟したわずかな肉をこっそり食べるのが関の山だ。

  さらに近年では、ゾウによる農作物被害に苦しめられている。半年間、膨大な労力を費やして育ててきた穀物が、収穫間近になるとゾウに食い荒らされてしまう。畑を守ろうとして、逆にゾウに襲われて殺されてしまった村人が何人もいる。ゾウは、1980年代には象牙を狙った密猟で激減したが、その後の対策の成果で個体数が順調に増えているのだ。 しかし、政府の対策は遅々として進まない。重要な外貨獲得源である観光産業の振興のために、政府は決してゾウを殺さない。人よりも動物が大切にされる土地、それがセレンゲティなのだ。ここでは、住民に対して「動物との共生」が「強制」されている。

  WAVOCプロジェクト「エコミニティ・タンザニア」では、住民が納得できる動物との共生の在り方を模索している。村人もゾウを殺すことは望んでいない。ただ、畑に来てほしくないだけだ。プロジェクトでは、現在、村人と協力してゾウ被害対策を考案中だ。車でのパトロールや、刺激臭などを用いた追い払いを計画している。本当の意味での「共生」に向けて、活動は始まったばかりだ。

(2006年4月6日掲載)

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First drafted 2006 April 6.