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研究最前線
インフルエンザ感染予防マスク
 〜バイオ抗体フィルターが空気中のインフルエンザウイルスを 1分以内に不活化することを実証〜


 昨年、本学教育・総合科学学術院 並木秀男教授(生物学専攻)と株式会社ダイキン環境研究所(現:株式会社ダイキン環境・空調技術研究所)はヒトに感染するさまざまなタイプの空気中のインフルエンザウイルスが、「バイオ抗体フィルター」により、1分以内という短時間に99.99%不活化(※)されることを確認した。
 バイオ抗体フィルターは、ダイキンの親会社が空調機に適用しており、他の民間企業の商品開発にも生かされている。そのバイオ抗体フィルターをマスクに挟み込んだインフルエンザ感染予防マスクが、近々製品化される予定だ。バイオ抗体フィルター開発の詳細に迫ってみた。
 ※ 不活化…感染能力を失わせること

従来の除去フィルターの問題点

 インフルエンザウイルスは室内の相対湿度が50%以下であると不活化されないため、従来の吸着による除去フィルターでは、いったん捕捉されても、乾燥すれば再び空気中に放出されてしまうという問題点があった。そのため、吸着している間に不活化する技術を併用してきた。しかし、従来の物理的・化学的方法では不活化するまでに時間がかかり、不活化が困難な状況にあった。

抗体を利用してのウイルス不活化

バイオ抗体フィルターの概要図

 今回の実証実験では、抗体をウイルスの不活化に利用した。そもそも抗体とは、生物体内で免疫反応を担っているタンパクであり、病原体が体内に侵入した時に、それに対応して生成される特異的結合性のある物質のこと。この方法は、物理的・化学的なウイルス不活化方法に比べて、安全性が高い上に、特定のウイルスを瞬時に不活化できるという特異性の高さと即効性が特徴である。しかし、抗体は従来の製法では高価で、工業的な利用には適さず、治療薬や診断薬にしか使用できなかった。

バイオ抗体フィルターとは

 今回開発したバイオ抗体フィルターは、(1)鶏卵抗体(※)を安価に大量生産する技術、(2)抗体の反応に不可欠な水分を保つ特殊調湿性素材、(3)抗体の活性をフィルター上で保たせる担持技術を組み合わせたもの。これにより、インフルエンザウイルスの不活化が可能となった。
(※【 鶏卵抗体】抗原(この場合インフルエンザウイルス)を特異的に吸着し、不活化することができる鶏卵黄に含まれる抗体)

バイオ抗体フィルターの効用

● 各タイプのインフルエンザに対する吸着効果

 インフルエンザ流行の歴史を見ると、過去2世紀の間に少なくとも10回以上の世界的大流行が記録されている。これは、流行するインフルエンザウイルスのタイプが年々変異を続けるうちに異宿主間のインフルエンザが混ざり合って突然変異することが原因であるといわれている。今回の実証実験により、このバイオ抗体フィルターがA型インフルエンザウイルスおよびB型インフルエンザウイルスを吸着することができると分かった。

● バイオ抗体フィルターの迅速な不活化効果

 今回の実証実験では、バイオ抗体フィルターに、感染力のあるインフルエンザウイルスの飛沫を噴霧した。その結果、バイオ抗体フィルターに噴霧した99・99%のインフルエンザウイルスが1分以内に不活化されることが分かった。これによりフィルターに捉えられた飛沫は、乾燥してさらに小さな飛沫として再飛散する前に、確実に不活化されることになる。

  このマスクの実用化によって、インフルエンザの感染拡大を最小限に抑えることが可能になれば、人類にとって実に有効な研究成果となるだろう。

バイオ抗体フィルターの共同研究を行った7機関
 学校法人早稲田大学
 厚生労働省国立感染症研究所
 株式会社エル・エス・エル
 株式会社ファーマフーズ研究所
 株式会社ゲン・コーポレーション
 東洋紡績株式会社
 株式会社ダイキン環境研究所


並木秀男教授のコメント


 この研究成果は多くの研究機関が共同で知恵を出しあってさまざまな技術の融合によって可能になったものであり、成果の具現化や発表にはそれぞれの思惑がからみそれを取りまとめるにはかなりの苦労があった。

  現在もNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成金で、インフルエンザウィルスの他にさまざまな病原体に対する抗体の作成を試みている。例えば、今問題になっている結核菌がそのひとつである。結核菌に限らず、病原菌はその遺伝子が変化して抗生物質に抵抗性を示すものが出現することが知られている。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)はその代表であり、院内感染が恐れられている。結核菌もその一つで、今までのBCGがほとんど無効となっている。新しいワクチンの開発が望まれているが、同時に本研究で示したような防御システムの開発も必要と思われる。

(2005年12月1日掲載)

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First drafted 2005 December 1.