先輩に乾杯!

弁護士を辞め、35歳で役者の道を歩み出した
 野元 学二さん



のもと・がくじ
1967年生まれ。早稲田大学高等学院時代にアメリカに留学。卒業後、86年法学部入学。田山輝明ゼミ所属。92年司法試験に合格。9年間弁護士として働いた後、俳優養成所の門を叩く。今年8月公開の映画「容疑者 室井慎次」に刑事役で出演の他、2006年公開予定の映画「ウインズ・オブ・ゴッド」、現在放送中のテレビドラマ「危険なアネキ」などに出演の予定。

 学生時代には、思い描く「なりたい職業」や「自分の夢」は頻繁に変わるもの。「自分探し」という言葉が必要以上に取り上げられる中、現在、夢を持っていない自分に焦っている人もいるかもしれない。
 だが、誰もが「本当に自分のやりたいこと」を学生時代に見つけられるか、また、見つけなくてはならないのだろうか? 今回は、弁護士から一転、役者として、再スタートを切った頼もしき先輩が登場する。

大学の講義を楽しみ、司法試験に打ち込んだ学生時代

 せっかく大学に入ったからには講義を楽しもうと思っていた学生時代。「自分の専門性を高めたい」と思い始めた気持ちは、次第に弁護士を志すように。「講義には積極的に臨んだ方がいいですよ。真剣に教授と向き合うことで見える教授の学問や人間に対する考え方や生き様は、とても面白く勉強になった」。もともと歌舞伎や演劇・映画鑑賞は好きで、試験勉強に打ち込む傍ら、息抜きに演劇博物館にもよく通っていた。だが、学生演劇などの練習風景には、「発声がうるさいなとしか思わなかった(笑)」。演じる側に立ちたいと思う自分に気付いたことはなかった。

  6年生で司法試験に合格。9年間で3つの法律事務所を経て、幅広い案件を扱ってきた。日本へ展開する海外企業のサポートや、個人のトラブルの解決、元銀行頭取の背任事件の弁護人にもなった。深夜まで働く毎日でも、仕事は面白く充実感もあった。収入も充分得られた。

35歳で迎えた人生の転機。役者の道へ飛び込む

 そんな人生にも転機は訪れる。同じく弁護士である妻の3度目の出産直後に、約1カ月の育児休暇を取った。仕事中心の生活から、育児や家事に携わる毎日へ。これまでとは視点が変わるとともに、悔いを残さない生き方ができているかをじっくり考えた。その時、マグマのように燃えたぎる「演じること」への内なる思いに揺り動かされた。演技の経験もない35歳。「それでも、飛び込むなら今だと直感的に思えたんです」。これまでのキャリアや肩書きを捨てても挑戦したかった。誰もが人生に悔いを残したくはないと思いながらも、実際に行動できる人は少ない。劇的な人生の転機をとても丁寧に話す野元さんの口調には、不思議なほどの説得力が感じられた。

  俳優養成所で2年、一回り以上年下の仲間と演技の勉強とトレーニングを続けた。弁護士時代に比べ、体重も10kgほど減量した。「初めて映画の現場に出て行った時、これだっ! と確信できたんです。さまざまな人間をよく見つめる。与えられた役を演ずることで、新たな自分を見つけられるんですよ」。オーディションを経て、舞台や映画の仕事をつかみ始めている。「まだまだ自分は駆け出しの身。これからが勝負」

学生時代にすべてを決めなくていい。まず、今できることをやる

 「社会に出ないうちに自分の生き方、やりたいことを見つけられる人の方が少ない」と語る野元さんは、学生時代にゼミの田山先生に言われた「目の前の果実はもぎ取れ」という言葉を紹介してくれた。「学生時代にすべてを決めることの方が難しいと思う。まず、今できることをやる。そこで生まれた人とのつながりを大切にする。それが大事だと思うんです。そのつながりが、今の仕事にも結果的につながっているし、私生活でも僕を勇気付けてくれています」

(2005年11月24日掲載)

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First drafted 2005 November 24.