特集

エジプト考古学と 早稲田大学への思い


エジプト・カイロ近郊にて 約3750年前の完全体ミイラを発見! 古代エジプト王朝解明に新たな一歩!

吉村作治 国際教養学術院教授

 本学古代エジプト調査隊(隊長 吉村作治国際教養学術院教授)が 今年1月初めにエジプト・カイロ近郊ダハシュール北遺跡にて約3,750年前のものと推定される「未盗掘の彩色木棺とミイラ」を発見した。
 未盗掘、未破壊の完全な形でミイラが発見された例としては最古級という快挙。
 今回の発見を機に、壮大なエジプト考古学と本学への思いを吉村先生に伺った。


ミイラは 軍事関係の「行政官」

黄色で彩色された木棺
黄色で彩色された木棺

 今回発見された未盗掘の木棺は、縦182cm、幅57cm、高さ105cmと極めて大型であり、木棺の外側全体が黄色で塗られ、全面にヒエログリフ(象形文字)が水色で描かれていた。ヒエログリフの解読から、被葬者は「行政官」の称号を持つ「セヌウ」という人物(男性)であると推測される。ミイラのマスク全体は、水色を基調とした多彩色で塗られており、胴体は真っ白い布で覆われていた。


初めての完全なミイラ

今回発見されたミイラ
今回発見されたミイラ

 調査隊がダハシュール発掘にかかわって9年、さまざまな発見があったが、今回のように未盗掘のものは初めて。なぜならば、エジプトの古代遺跡は、古くから宝物目当ての墓泥棒に荒らされてきたため、完全な形でのミイラ発見はまれであったからだ。今回のミイラが発見された竪穴墓は、多くの岩で埋め尽くされ、岩盤の横穴に木棺が納められていた。これが幸いして墓泥棒も見逃したのかもしれない。もちろん、今回の発見は本学エジプト研究所の発掘調査によるたゆまぬ努力の賜物であることは言うまでもない。


ダハシュール北遺跡とは?

ナイル川古代遺跡地図

 ダハシュールは古王国時代(約4650〜4180年前)や中王国時代(約4040年〜3785年前)のピラミッドが立ち並ぶことで知られている地域である。

  今回の発見場所であるダハシュール北遺跡は、エジプトの首都カイロから南方約25kmのナイル川西岸に位置する。

  本学エジプト学研究所は、1966年より、この地区での発掘調査を続け、ツタンカーメン王やラメセス二世の名が刻まれた遺物を発見してきた。このことから、ダハシュール北遺跡が新王国時代(約3565〜3070年前)に建設された墓地であることが解明された。さらに研究所は、昨年から発掘区域を西側に移し、そこで「プタハ神のウアブ神官」、「朗唱神官」の称号を持つ人物「タ」の墓を発見した。今回のミイラは、この「タ」の墓の南側に位置する場所の地下5mで発見された。


エジプト考古学とは?

1966年、エジプトへの初めての調査  左端が吉村先生
1966年、エジプトへの初めての調査 左端が吉村先生

 そもそもエジプト考古学は以下の4つに大別される。
(1) ピラミッド建造論(ピラミッドはいつ、どのように建てられたのか?)
(2) 古代エジプト人の生活の質について
(3) 比較文明論(古代エジプト文明と他の文明との比較)
(4) イスラム科学論(イスラム文明とのつながり)

  「中でも重要なのがエジプト人の生活の質を分析すること」と吉村先生は話す。つまり、ミイラの副葬品などから、当時の国力や市民の裕福度にあたる生活のレベル、質が客観的に推測できる。それが解明されれば、さらに当時の思想や哲学、文明などまでもが分かるからだ。例えば、王の所持品が家来の墓に入っていれば、具体的な主従関係や、王の人物像・人情の機微といったものまでもが推測が可能。今回発見されたミイラからは、今後、ソフトX線やCTスキャンにより、これまで謎であった当時の軍人の生活が解き明かされるようだ。分析は今夏実施される予定。結果が大いに期待される。


エジプト考古学に 必要なもの

 「考古学」と聞いて皆さんが思い描くものは「ロマン・あこがれ」といった情緒的なものが多いのでは? 実際に、これらの動機で、吉村先生の門をたたく学生が毎年多く見られるとのこと。しかし、現実は甘くはない。吉村先生は、「考古学は、日々の勉強に耐えうる強い忍耐力が必要とされる厳しい学問」と強調する。さらに、「必要なのは、考古学に対する情緒ではなく情熱。プラスαの要素として、芸術的なものよりも客観性や広い視野、常識、知性、教養、チームワーク、英語力が求められる。また、文系よりもむしろ理系(数学・物理・化学など)のセンスが必要だね」との言葉が印象的だった。


吉村先生から 早大生へのエール!

早稲田大学古代エジプト調査隊 略年表

1966年 ナイル川流域の踏破調査 念願の発掘調査開始
1973年 第三次マルタカ南遺跡発掘調査開始 魚の丘遺跡採色階段の発見
1981年 ルクソール西岸クルナ村、貴族の墓より約200体のミイラ発見
1987年 第一次ピラミッド調査開始、「第二の太陽の船」のピット発見
1991年 アブ・シール南丘陵頂部発掘調査開始。ラメセス二世の第四王子カエムワセトの葬祭殿を発見
1997年 第二次ダハシュール調査にてツタンカーメン王の銘が刻まれた指輪を発見
2002年 アブ・シール南遺跡にて世界最古級の大型石造建造物を発見

 日本におけるエジプト考古学研究の基礎を確立したのは、まさに本学と言っても過言ではない。その当初から携わっている吉村先生は、「在学中(1966年)にエジプトへ行き、当時あまり知られていなかったエジプト考古学という学問に没頭できたのは、早稲田にいたからこそ。何事にもチャレンジをさせてもらえる自由な風土が早稲田の素晴らしさですね」と熱く語る。

  しかし、「当時は、やりたい学問を徹底的にやる面白い学生がたくさんいた。当時の先生方も学生からの提案を受け入れ、一緒になって学んでいくという姿勢があり、気概があったね。でも今は、きれいに型にはまっている感じかな」と、現在の早稲田に複雑な思いも。

  「在学中は、型にはまらずに、ぜひ、思い切って学問にチャレンジしてほしい」と熱いエールを送ってくれた。がんばれ早大生!


■吉村 作治 国際教養学術院教授
 1943年東京都生まれ。本学第一文学部卒業。1987年人間科学部助教授、1996年人間科学部教授、2004年〜現職。博士(工学)。1966年、アジア初となる早稲田大学古代エジプト調査隊を組織し、エジプトを調査。以来約40年にわたり発掘調査を継続している。専門は「エジプト考古学」、「比較文明学」。著書に『ヒエログリフで学ぼう!』(荒地出版)、『吉村作治の古代エジプト講義録(上・下)』(講談社+α文庫)他多数。
【URL】http://www.egypt.co.jp/

(2005年4月7日掲載)

Copyright (C) 2005 Student Affairs Division, WASEDA University. All rights reserved.
First drafted 2005 April 7.