とっておきの話

森を走る


1993年にシェラン島3日間大会(デンマーク)を走る筆者
1993年にシェラン島3日間大会(デンマーク)を走る筆者

教育学部助教授 箸本 健二

 20年ほど前、オリエンテーリングというスポーツに出会った。日本では、徒歩で野外のポイントを廻るレクリエーションという認識が一般的であるが、元来は北欧生まれの「走る」スポーツであり、ワールドカップや世界選手権も存在する。その一方で、生涯スポーツとしての環境整備にも積極的で、競技会には数多くのクラスが設定され、参加者は年齢、実力、ハンディキャップの有無に応じて、自分の参加クラスを選択できる。

  地理屋ゆえ昔から地図との縁は深いが、そもそもオリエンテーリングに惹かれたきっかけも、その競技性よりは競技用地図の美しさにあった。上質の耐水紙に大縮尺で描かれた競技用地図には、地形、道、家屋などの基本情報から、森の中の通行可能度といった類の微細な情報までが、カラフルな色とともに詰め込まれている。競技者は、酸欠状態の頭で豊富すぎる情報を瞬時に処理しつつ、刻々と移動する現在位置を把握し、採るべきルートを意思決定しなければならない。足が速いだけでは決して勝てない。そこに、足は遅いが老獪なおじさんの勝ち目がある、と自らを励ましてきたが、それも程度問題であることを最近とみに痛感している。

  このスポーツの最大の特徴は、自然環境を競技の場とし、その準備作業に膨大な労力を費やすことである。数km四方にも及ぶ範囲で、微地形、植生、通行可能度を正確に調査し、図化する作業は並大抵ではない。その労力は、原則として主催メンバーの無償奉仕に依存している。日本は、アジアで数少ない世界選手権の常連国であるが、それでもオリエンテーリングの地位はマイナースポーツの域を出ず、競技人口は圧倒的に少ない。もう少し競技人口が増え、事前調査や競技の時だけでなく、定期的に森へ出向いてその保全にひと役買いつつ、競技のPRもできないだろうかと、荒廃が目立つ里山を眺めては嘆息している。

  次は、国際教養学部の桜井啓子先生にバトンタッチです。

(2004年12月9日掲載)

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First drafted 2004 December 9.