よく分かる!

研究最前線 よく分かるプロジェクト研究所
 経済教育総合研究所


山岡 道男先生
山岡 道男先生
2004年夏季セミナーの様子。
 2004年夏季セミナーの様子。
環境問題を、経済学的視点で体験的に学ぶアクティビティ。ゴミを床にばら撒き、まず1分間、ゴミをとる。大きなゴミはすべてとられる。次に、さらに1分間ゴミをとる。これでほとんどのゴミが収集される。さらにゴミとりを続けると、大変な作業となる。これにより、環境保持の費用(コスト)とベネフィット(便益)を学ぶことになる。
経済教育総合研究所の発行物
経済教育総合研究所の発行物
各種経済リテラシーテスト
各種経済リテラシーテスト

国際賞を受賞時にRobert Duvall NCEE会長(左)と。
アワード・ディナーは、4日間の日程で開催される年次総会の第2日目の夜に開催されるもので、正装での参加となる。この1年間に活躍した人々に対して表彰が行われる。

  近年「自己選択・自己責任」という言葉をよく耳にするようになった。日常の経済生活でも自らの合理的な選択と意思決定の下で、自律的な行動が求められている。いわゆる自己責任の時代の到来である。

   長期的な景気低迷、経済・金融構造の変革という困難な状況に直面している今日の日本においては、生活に必要な経済の知識を身に付けることは必須である。このような状況の下でより重要になってくるのが「経済学教育」の在り方であろう。

   今回ご紹介するプロジェクト研究所は、経済学教育の諸問題を扱う「経済教育総合研究所」。主宰者の山岡道男アジア太平洋研究科教授にお話を伺った。
■プロジェクト研究所
【URL】http://www.waseda.jp/kikou/index.html

経済学をいかにわかりやすく教えるのか 〜米国経済教育協議会に参加〜

 「私は約30年前に高校で経済を教え始めましたが、その直前までは博士課程の大学院生であり、最先端の理論の研究をしていました。急に高校の社会科の教員となって、どのように経済を教えたらいいのか悩みに悩んだ結果、高校生や大学生に分かりやすく経済学を教える方法を研究する経済学教育に興味を持つようになりました」。そのような中で、当時、アメリカの米国経済教育協議会(National Council on Economic Education, 以下NCEE)が主催するアメリカの夏季セミナーに参加する機会を得た。「生徒に授業に興味を持たせて飽きさせないための指導書や教材が整備されていて、アメリカは進んでいるなと感心しました」。山岡先生は授業を学生参加型(学生に作業をさせたりグループ討論やアクティビティを導入する等)に変更したり、NCEEの教材を日本語に翻訳して出版。経済教育の研究と実践を積み重ねた。

  NCEEは、アメリカにおいて幼稚園児から大学生までを対象に経済学教育を普及することを目的に、1949年に設立された学会組織。市民の経済リテラシーを高めることを目的としている。

IT化、ソ連邦の崩壊、グローバル化が 経済教育にも大きな影響をもたらす

 実績を重ね、その後大学に移籍した山岡先生は、1993年以来ほぼ毎年アメリカのNCEE年次総会に参加して学会報告を行っている。この間の経済教育に関する大きな変化について次のように語っている。「第一に90年代後半からインターネットが急速に普及し始め、教材の中に取り入れられたこと、第二にソ連邦の崩壊後にロシアを含めた旧ソ連邦の国々(カザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタン等)でマルクス経済学に代わって、近代経済学を教える教員用セミナーを大規模に開催するようになったこと、第三にここ数年NCEEの研究領域がパーソナル・ファイナンス教育に重点を置きだしたことです。グローバル化の波の中で、時代の趨勢として個人の金融問題が重要な課題となってきました」

プロジェクト研究所の活動の3つの柱

 経済教育総合研究所では、中等・高等レベルの経済学教育がかかえる諸問題を取り上げ、それらについて調査、分析、政策提言を行うとともに、研究成果の出版・普及、新しい教材・教育方法の開発・普及、経済学教育研究者・専門家の国際的なネットワークの構築、国際的な共同研究の実施と、国際会議の開催を行っている。

活動の主な3つの柱は次のとおり。
一、夏季セミナー(国際会議)
二、研究会(年2〜3回)
三、経済リテラシーテストの実施
 (生活経済テスト、第2回経済理解力テスト、第3回「金融ビッグバン」基礎テスト、第4回経済リテラシーテスト・フォームA、第5回経済リテラシーテスト・フォームB、第6回パーソナル・ファイナンス基礎テスト Financial Fitness for Life Theme Test)。

  プロジェクト研究所開設以前の研究活動も含めて、これまでは、韓国、中国、アメリカ、フィリピン、ニュージーランド、オーストラリアなどでこれらのテストを実施してきた。日本では、高校生・大学生二千人〜一万人に実施し、結果を分析し、経済教育の在り方を提言している。また一方で、アメリカのNCEE年次総会でも分析結果を発表し、各国の比較分析を行っている。

NCEEで日本人で初の国際賞受賞

 今年9月、アメリカのアーカンソー州リトルロックで開催されたNCEE総会のアワード・ディナーで国際賞を受賞した。この賞は、長年にわたり経済教育を国際的に推し進めた者に与えられるもので、日本人として初めて日本チームの代表として、山岡先生は国際賞を受賞した。

  最後に気さくな山岡先生からのメッセージ:「研究の内容としては『教師教育』ですが、興味がある方はセミナーなどに参加してください。出版物も差し上げます」
【連絡先】yamaoka@waseda.jp

第6回生活経済テスト・パーソナルファイナンス基礎テスト 各テーマ別に見た正答率(高校生・大学生別)

テーマSample平均 (%)
経済についての考え方高校生53.7
大学生60.4
所得を得る高校生73.4
大学生80.2
貯蓄と金融商品高校生42.4
大学生44.9
支出とクレジット高校生52.3
大学生63.2
家計の金銭管理と保険高校生45.7
大学生58.7
全体の平均高校生53.5
大学生61.5

 現在実施中の第6回生活経済テストの最終結果は、来年の3月末に、多数のサンプルを集めた後に得られる。参加者募集中。上記の結果は、フィールド・テスト(予備調査)として、約200人の高校生と大学生を対象に実施したものである。

 これまでと同様に、大学生の方がテストの平均得点は若干良い(今回は、8ポイント)が、(1)大学生の方が、この得点差分だけ、各設問で高くなっていること、(2)つまり、各設問別で見て、高校生が良くできれば、大学生も良くできて、高校生が悪ければ、大学生も悪いという傾向があらわれていた。しかし、国際比較すると、各設問間でかなりの得点のバラツキが見られる。

 これまで実施した5回のテスト結果を見ると、日本の高校生と大学生は、(1)希少性、機会費用、トレードオフといった基礎的経済概念と、(2)金融関係の問題とが良く理解できていないということが分かった。

(2004年11月25日掲載)

Copyright (C) Student Affairs Division, WASEDA University. 2004 All rights reserved.
First drafted 2004 November 25.