薦!

『辺境に映る日本−ナショナリティの融解と再構築−』
 福間 良明 著
柏書房 2003年7月発行 価格5,040円(税込)


ナショナリティの ゆらぎと再生産

<評者>
周藤 真也
(すとう・しんや)
社会科学部専任講師
1970年生まれ
2004年4月嘱任
担当科目:社会学の思想と理論

 ラフカディオ・ハーンといえば、『怪談』などの再話文学や日本に関するエッセイなどの作品で知られ、最期の年には早稲田で教壇に立った。没後百年を迎えた今年、ゆかりの地などではさまざまなイベントが繰り広げられている。

  近年、ナショナリティについての議論が盛んだ。もちろんこれには冷戦構造が終わり、新たな世界秩序への模索が続いている現代的な状況が背景の一つにある。そうした中で、ナショナリティというものが、近代の社会状況のなかで創られた構築物であるということは、今日もはや「常識」の部類に入ってきている。一見強固そうにみえるナショナリティもまた多様性をはらんでいる。本書が注目するのは、ナショナリティの「ゆらぎ」と「構築」が互いに絡まり合いながらナショナリティを創り変容していく様態であり、それを媒介する「辺境」の存在だ。

  このことを本書では、明治期から戦時期に至る近代日本の学問的言説を取り上げて分析していく。例えば、英文学という領域が形成される中で、ハーンのテキストは「西洋」から逆輸入され、「日本をこよなく愛した西洋人作家」としてのハーンの像が作り上げられていき、「世界」全体がハーンの描くような「日本」を承認することが期待されるようになる。しかし、そこで提示されているのは、ハーンが取り上げたような「旧日本」や「松江」、「熊本」といった「地方(辺境)」との差異が包摂され消去された均質な「日本」の像であったのだ。

  今日、「世界の中の日本」が言われる一方で、「地方の時代」が叫ばれる。本書は、「日本」のナショナリティを考える上で、ぜひお薦めしたい一冊である。

(2004年10月7日掲載)

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First drafted 2004 October 7.