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研究最前線: GHQ占領期雑誌目次のデータベース化


 GHQ占領期の雑誌目次のデータベース化が進められている。完成すれば最終的には200万件がデータベース化される見込み。雑誌の種類では1万3,700種、推定15万冊もの膨大な資料となる。これらの資料からは、当時の日本の民衆の声を知ることができるのみならず、著名な作家、思想家の貴重な資料が次々と発見されている。

山本武利政治経済学部教授
山本武利政治経済学部教授
プランゲ文庫とは?
元GHQの(連合軍総司令部)参謀第二部戦史室長の故ゴードン・プランゲ博士は、占領期の一九四五年から四九年にかけて、日本の出版物の検閲を担当した。
「DELETED(削除)」などの印が押された生々しい検閲対象出版物は、彼がその母校の米メリーランド大学図書館に移管。現在は日本でも国立国会図書館
でマイクロ化され見ることができるが、日本国内に現存しないものも数多く含まれ、雑誌だけで推定全ぺージ数六百十万の膨大なもの。
OSSの生資料のコピー
▲OSSの生資料のコピー。Confidential(機密書類)という文字が押印されている
山本教授が一次資料から分析したアメリカの対日諜報計画などは、数多くの雑誌、専門誌に発表されている。
山本教授が一次資料から分析したアメリカの対日諜報計画などは、数多くの雑誌、専門誌に発表されている。
インテリジェンスに関する専門誌 『Intelligence』
インテリジェンスに関する専門誌 『Intelligence』。 20世紀メディア研究所が編集、発行する。 紀伊國屋書店で発売されている。
2001年に開催されたプランゲ文庫の児童出版物の展示会ポスターより
2001年に開催されたプランゲ文庫の児童出版物の展示会ポスターより
山本武利(やまもと・たけとし)
 メディア史、情報史専攻。1940年愛媛県生まれ、1969年一橋大学社会学研究科博士課程修了、博士(社会学)、1985年〜2001年一橋大学社会学部教授、2001年〜早稲田大学政治経済学部教授、2004年〜北京広播学院博士指導教授。日本マス・コミュニケーション学会、日本広報学会などに所属。主著『新聞と民衆』(紀伊國屋書店)、『広告の社会史』(法政大学出版局、日本出版学会賞、日本広告学会賞)、『紙芝居』(吉川弘文館)、『日本兵捕虜は何をしゃべったか』(文春新書)、『ブラック・プロパガンダ』(岩波書店)。正岡子規の社会観察作品を愛読。趣味は社会ウォッチング。たとえばキオスク、コンビニでの新聞・週刊誌の読者観察。1年前から住友生命社外取締役となり、教授会と取締役会の差異も観察中。同僚とのテニスが好きだが、早稲田と一橋の力量の差に愕然。現在週1回平泳ぎ練習に励む。

GHQ占領下の日本のあらゆる雑誌目次をデータベース化する一大プロジェクト

 GHQ占領下の1945―49年当時のあらゆる出版物を網羅しているプランゲ文庫。プランゲ文庫とはGHQ占領時、検閲のために集められた日本の出版物。オリジナルはアメリカ・メリーランド大学に所蔵されている。そのうち雑誌目次のデータベース化を推進しているのが、山本武利政治経済学部教授を代表とするプロジェクトだ。2000年度から科学研究費の研究成果公開促進費を得て、進められている。助成金額もデータベース分野ではほぼ毎年全国2位で、国家的なプロジェクトと言っても過言ではない。

 現在データベースの項目数は約140万。Web上に無料で公開されていて、キーワード検索が可能。対象分野も自然科学、哲学、文学などありとあらゆるジャンルに及ぶ。「自然科学の研究者にも当時の科学技術、医学のレベルを知る上で役立ちます。早稲田をはじめ理工系の研究者にもぜひ活用していただきたい」と山本先生。

貴重な発見が続々と太宰治、坂口安吾、大山郁夫、石橋湛山など未収録の作品が発見される

 これまでも大量の貴重な資料が発見されている。「太宰治、坂口安吾、大山郁夫、石橋湛山などの全集に未収録の作品がゴロゴロしています」。武者小路実篤、壷井栄らの新資料も見つかっている。  占領期目次データベースを活用した多彩なテーマの研究が展開  5月に発表された「20世紀メディア研究所」の占領期雑誌研究会のテーマは次のとおり。これらからも研究テーマの幅広さがうかがえる。

  • プランゲ文庫の中における戦後作家―出発期の諸相をめぐって
  • 菊と憲法―「右翼」ジャーナリズムにおける戦後
  • GHQ占領と宝塚歌劇
  • GHQの対日スポーツ政策
 今後は財界人を取り上げていく企画が検討されている。「松下幸之助さんの原稿は、検索で51件ヒットします。そのうち少なくとも13件はご本人の資料館にも入っていない貴重なものです」

アメリカの電子図書館をみならい、プランゲ文庫も電子化して公開する

 山本武利教授の専門は、マスコミュニケーション史、情報史、特にプロパガンダ史、諜報史である。これらを包括して最近ではインテリジェンス史といっている。マスコミュニケーション史を研究する中で、とくに占領期の研究にウェイトを置くようになった。1996年から98年まではメリーランド大学、米国国立公文書館を拠点に研究。機密解除となったOSS(CIAの前身)の9割の資料が、90年代までには電子タイトル検索が可能となっていた。そこで第二次大戦期の日米の宣伝、謀略研究を精力的に行った。その際に先生が感じたのは「日本は情報非公開の国。アメリカは情報公開の国」であるということ。「アメリカでは国家機密すれすれまで公開する。しかもデジタル化して使いやすくなっています。占領期の資料も電子化して公開したい」と帰国後このプロジェクトに着手した。

「20世紀メディア研究所」を主宰し、専門誌 Intelligence を発行

 山本教授は「20世紀メディア研究所」を主宰し、幅広いテーマで研究活動を展開している。メンバーは、大学横断的に50人程。研究成果をまとめIntelligence を発行している。またメールマガジンもリリース。国内はもとより、ハーバード、コロンビア、スタンフォード大学など、海外の研究者も含め1,500人ほどがメーリングリストに名を連ねる。
 占領期雑誌記事情報データベース化プロジェクトは、「20世紀メディア研究所」の占領期雑誌研究会がサポートしている。この研究会は、現代政治経済研究所に所属する。主として筆名、隠語など関連語で検索して、データベースでのヒット率を高めるためのシソーラス(類似語辞典)つくりに邁進(まいしん)中である。

これまでのメディア研究から日米関係を考察すると ―日本は自立したインテリジェンス政策を―

 「アメリカは長期的に日本をアメリカ陣営に引き留めようとして、占領以前から策を練っていた。プランゲ文庫を見ても分かるように、アメリカは客観的に日本の資料を把握しようとしていたのです。日本人の生活様式だけではなく意識もアメリカナイズさせるインテリジェンス政策が、効を奏したと言えます。戦後60年間、精神、政治、経済のどの面でも日本はアメリカにあまりにも従属し、日米一体化し過ぎていると言える。アメリカから情報公開など学ぶべきことはありますが、日本は自立した外交なりインテリジェンス政策を行うべきだと思います」

埋もれた資料を次に発見するのは、あなたかもしれない!

 雑誌記事と一言で言っても、青年団誌、PTAの会報誌までも網羅されている。「データベースには、私の出身地の愛媛県八幡浜市の数十の地元の雑誌も入っています。試しに母の名前を検索したら、母がつくった短歌が掲載された雑誌がみつかりました。母に知らせたら、驚いていました。親孝行できましたよ(笑)。ですから、皆さんのおじいさん、おばあさんや周辺の人の名前を検索してみたら、ヒットするかもしれませんよ」  この貴重な研究を専門家だけに任せるのはもったいない。データベースは、誰にでも公開されている。早大生の皆さんもぜひアクセスしてみよう。埋もれた資料を発見するのはあなたかもしれない。
【URL】
 ■20世紀メディア研究所
http://www8.ocn.ne.jp/~m20th/

 ■占領期雑誌記事情報データベース
http://www.prangedb.jp/

(2004年6月17日掲載)

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First drafted 2004 June 17.