よく分かる!

研究最前線 よく分かるCOE(9)
 企業社会の変容と法システムの創造
   ―企業・金融資本市場法制の再構築とアジアの挑戦―



 日本社会は、バブル崩壊後の長引く不況の中、先行き不透明な困難な時期を迎えている。それは結局、「株式会社や証券市場の使い方を知らない若葉マークの日本が、戦後、手当たり次第にこれらを使っていった結果生じたものである」と上村達男法学部教授は語る。
 このプログラムでは、バブル生成と崩壊で危機に瀕した日本型資本主義の欠陥を克服するため、企業法制、資本市場法制をはじめとした法制度を中心とする社会システムの再設計を目指している。そのために、法制の根底にある思想、哲学、歴史に遡り、これらを踏まえて社会システムのあるべき姿を探求する。
 昨年度の「21世紀COEプログラム」に、本学から4拠点が採択された。今回が4つ目の拠点紹介になる。拠点リーダーの上村教授にお話をうかがった。


人間が尊重される企業社会へ―企業法制は市民社会の質を規定する―

法人優位から人間中心の社会システムへ

「企業法制の在り方を見直すことは、市民社会の在り方を問うことです。例えば、エンロンやワールドコム破綻のような問題が起きた場合、本来株主は怒るものです。しかし、日本の株主は多くが法人株主のため、諸外国の株主ほど怒らない。一方、欧米では、ギルドや団体による抑圧の中で個人中心の市民社会を作り上げた歴史を持っているので、株式市場が個人投資家によるものであることにこだわります。アメリカでは、個人のための機関投資家を含めると、個人が投資家の9割を超えています。

 市民社会と企業社会が本来非常に近い存在であるべきという思想的背景を持たない日本は、市民社会と企業社会が乖離した法人中心の企業社会を、経済の急発展と引き換えに作ってしまいました。これを変容させていくためには、欧米の結社や団体、法人に対する警戒感、それを生んできた啓蒙思想や市民革命などの歴史や思想の研究まで掘り下げていく必要があります。その上で、日本は、市民社会と一体の個人に優しい個人中心の企業社会へと移行する必要があります。このような形にするためには解決すべき問題が、山ほどあります」


法システムの整備・理論構築を率先して行う

 バブルの後遺症にいまだにさらされている日本では、株式会社制度や証券市場を適切に運営するための法制度の整備は緒についたばかりだ。「アジア諸国も日本と同じ課題に直面することは必至です。このことは安易なバブルの形成が、その崩壊後における企業の破綻や失業、犯罪、戦争に結びついてきたことを考えると、由々しき問題です。大きな挫折を味わった日本が、率先して欧米の制度と歴史、その裏にある目に見えない経験則や思想、理念を研究し、追体験することでアジアの経験不足をカバーし、独自のシステムを作り上げることができます。諸外国が今後に迎えるかもしれない危機を事前に察知し得る法システムの理論構築が、本拠点の最大の目的です」


5つの研究部門と 「知的財産法制研究センター」で構成される総合研究所を 中心とした研究体制

基礎理論研究部門:啓蒙思想と市民社会、団体理論、見えざる社会的規範を対象とし、欧米の企業・市場に関する法意識調査などを実施。
民事法制研究部門:主に企業と市場に関係する民事法の在り方を研究
企業・資本市場法制部門:企業統治の在り方や資本市場と直接の関係に立つ資金調達法制、企業再編法制などの企業法制、資本市場法制自体の問題を研究対象とする商学研究科の経済学、会計学、経営学の専門家との共同研究を推進。
刑事法関係研究部門:市場犯罪や法人処罰など、企業と市場に係る刑事法制を主な研究対象とする。
紛争処理法制研究部門:企業と市場に係る機動的な法の実現ないし制裁手段の多様性等が研究対象。

 また、「知的財産法制研究センター」では、国際的ネットワーク構築、世界的レベルでの紛争事例・判例の検索システム構築とともに知的財産紛争の処理に取組む。

 これらの部門・センターには、約25もの研究企画グループを擁する大掛かりな体制だ。


次世代を切り開く研究者の育成を重視

大学院法学研究科(商学研究科等の他研究科も含む)博士課程にCOE提供講座を開設し、企業法などに関する学位論文作成を指導。また、既に博士課程学生3人を客員助手として採用しているほか、リサーチ・アシスタント(研究補助員)制度(既に19人程度採用)を活用し、海外派遣や現地調査等の機会を積極的に与える。法務研究科(法科大学院)生にも研究成果を提供する。

 本拠点の問題意識はアジアの国家である日本が西欧の真髄である法・制度に挑戦するものなので、同じ悩みをもつアジア諸国から留学生を多数受け入れ、問題意識を共有し、学位論文の作成を支援する。また、法学部1年生を対象に、入学した時点で最新の問題意識に触れられる横断的な講義をCOE提供講座として実施する。


野放図な自由化や規制緩和に 対して「制度の根幹を問う!」

「本拠点は法律から思想まで多分野の専門家を擁する早稲田でしか、実現し得ないものです。野放図に自由化や規制緩和ばかりを強調してきた現在までの在り方に対し、『制度の根幹を問う』姿勢を貫くことは、まさに建学の精神である『学の独立』と『進取の精神』を必要とするので、早稲田にこそふさわしいテーマといえます」と上村教授は熱く語った。

■早稲田大学21世紀COE
《企業法制と法創造》総合研究所

【URL】http://www.waseda.jp/prj-COE-WIN-CLS/
【事務所】西早稲田キャンパス 1号館308号室

概念図

事業推進者一覧

氏 名所属部局(専攻等)・職名
(拠点リーダー)
上村 達男
法学部(民事法学専攻)・教授
(比較法研究所・研究員)
高林  龍法学部(民事法学専攻)・教授
木棚 照一法学部(民事法学専攻)・教授
(比較法研究所・所長) 
宮島  洋法学部(公法学専攻)・特任教授
宮島 英昭商学部(商学専攻)・教授
加古 宜士商学部(商学専攻)・教授
鎌田  薫法学部(民事法学専攻)・教授
内田 勝一法学部(民事法学専攻)・教授
樋口 陽一法学部(公法学専攻)・特任教授
宮澤 節生臨床法学教育研究所・客員教授
奥島 孝康法学部(民事法学専攻)・教授
竹中 俊子臨床法学教育研究所・客員教授
島田 陽一法学部(民事法学専攻)・教授
大塚  直法学部(民事法学専攻)・教授
笹倉 秀夫法学部(基礎法学専攻)・教授
戒能 通厚法学部(基礎法学専攻)・教授
戸波 江二法学部(公法学専攻)・教授
野村  稔法学部(公法学専攻)・教授
須網 隆夫法学部(民事法学専攻)・教授
浦川道太郎法学部(民事法学専攻)・教授
加藤 哲夫法学部(民事法学専攻)・教授
田口 守一法学部(公法学専攻)・教授
近江 幸治法学部(民事法学専攻)・教授
尾崎 安央法学部(民事法学専攻)・教授

(2004年4月15日掲載)

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First drafted 2004 April 15.