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研究最前線 よく分かるCOE:「多元要素からなる自己組織系の物理」教育研究拠点

石渡信一理工学部教授
拠点リーダー 石渡信一理工学部教授のコメント
 「物理学が得意としてきたのは、単一あるいは少数の要素からなるシステムを明らかにすることでしたが、これまで物理がいわば難しくて避けてきた複雑なものを正面から取り上げたいと考えています。多元要素、つまり多種多様な要素からなるシステムを取り上げます。その典型的な例は生物です。生物といえどもモノであるととらえ、その仕組みを明らかにするためには、これからの物理学は多元要素からなる自己組織系という、これまで扱ってこなかったシステムに挑戦する必要があります。本学は伝統的に実学志向ですが、基礎科学としての物理学に新しい局面を打ち出したいと考えます。応用を重視する早稲田の良いところを残しつつ、基礎科学に貢献するグループ作りを目指します。とくに若い優秀な人材を輩出したいのです。複雑なものを理解しようとすると、今までの物理では歯が立ちません。未開拓の分野に挑戦し得る力を持った若い人材を、これまでの縦のつながりだけではなく、横の関係を重視したホリスティック(全体は部分の和ではなく一つの有機的つながりととらえる)研究・教育システムを生み出すことによって育成します」
 2003年度開始分の「21世紀COEプログラム」に本学から4拠点が採択された(本紙1007号既報)。初回は、石渡信一理工学部教授が教育研究拠点リーダーの「多元要素からなる自己組織系の物理」についてご紹介する。  これまで物理が対象としてこなかった複雑な現象を正面から取り上げ、生物と物性、宇宙と物性といった、これまでにない組み合わせ方で、物理学の対象を同時並行的に目の前に提示し、そこにある共通の原理に気づかせるような研究・教育の場とシステム作りを目指している。

プログラム概要・主旨
 タンパク質やDNAとカーボンナノチューブや高温超伝導体、生物や宇宙の階層構造との共通性、またこれを記述する物理の言葉とはなにかを考えるのに、生物・物質・宇宙を「自己組織系」という概念でとらえる。自己組織系とは、構成要素が相互作用することによって自発的に新しい機能や構造を獲得する系のことである。生物といえどもつきつめれば「モノ」の集まり。生物機能を担うタンパク質分子は、20種類のアミノ酸という多元要素(多種多様な要素)からなる自己組織系であり、生物機能は物質としての多元要素が互いにエネルギーと情報をやり取りしつつ、時空間的に織りなす一つの様相と見なすことができる。
 多元要素からなる自己組織系を記述する第一原理的理論はまだ存在しない。現在の物理学の枠組みでは解明の糸口すら定かではなく、完全な解明はノーベル賞級の難問である。この難問に正面から向き合うため、高精度の測定結果に基づく理論解析を行い、研究成果を積み重ね、5年後には世界第一の自己組織系物理学の総合研究機関となることを目指している。

拠点形成の目的・必要性
 本拠点の目的は、多元要素からなる自己組織系を理解し制御する物理学の創造であり、20世紀の還元主義(少数の基本粒子の性質が理解できればすべてが理解できるという考え方)への挑戦である。21世紀は生物の時代といわれ、国内外では「バイオ(bio)」の名を冠する研究教育機関が次々と創設されて、遺伝子(ゲノム)解析に力が注がれている。しかし、ポストゲノム時代の基礎生命科学に求められているのは、生物を生物として成立させている物質的基盤に働く基本原理の解明である。そして、生物の仕組み、例えば生物におけるエネルギー変換の分子メカニズムを理解するためには生物機能に内在する普遍性を抽出し記述する物理学が必要だ。
 ここで提案する自己組織系の物理学が発展し、生物・物質・宇宙に共通の言葉、記述体系が見出せたなら、その影響は20世紀の量子力学に匹敵する変革をもたらす可能性がある。生物・物質・宇宙にまたがる多種多様な横糸を見出すこと、その過程には物理学としての未開拓の道があり、夢がある。物理を志す若者たちに新分野開拓の夢を与えることができるだろう。

研究拠点形成実施計画
 異分野間の共同研究による相乗効果によって、個々の力では到達できない成果を得るための「システムと場」を構築する。「自己組織系をとらえる」計測グループ、「自己組織系をモデル化する」理論グループ、「自己組織系で機能を創造する」創造グループに分かれ、分野横断的な共同研究を推進する。一方、生物、物質、宇宙の3分野で、研究対象ごとにも共同研究を奨励する。研究対象を縦糸とすれば、手段を横糸としてメンバーは他のメンバーと有機的に連携し緊密な研究組織(ホリスティック研究システム)を形成することになる。
ホリティック研究システム
【URL】http://phys.waseda.ac.jp/coe21/ より
教育研究実施計画
 多元要素からなる自己組織系の研究には、広い視野を持って物理学を見ることができ、理学的思考と工学的思考のバランスを持った人材が必要不可欠である。そのため大学院生たちに、できる限り早く研究の最先端を意識させること、同年代のライバルを意識させること、研究の競争的環境を意識させることを目的とした「大学院生覚醒プログラム」を遂行する。
 具体的には(1)優秀な研究提案(特に分野をまたがる野心的な提案を奨励)に対して研究奨学金を給付し、(2)海外研究教育機関との相互指導制度や、(3)ホリスティック物理学輪講などの新科目の設置などを計画している。
大学院生覚醒プログラム
大学院生覚醒プログラム
※本文は、『CAMPUS NOW』2003年10月号より転載。

プログラム推進担当者一覧
氏 名所属部局・職名
(拠点リーダー)
石渡 信一
理工学研究科生命理工学専攻・教授
船津 高志理工学研究科生命理工学専攻・教授
竹内  淳理工学研究科ナノ理工学専攻・教授
鷲尾 方一理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
小松 進一理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
鵜飼 一彦理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
中島 啓幾理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
大師堂経明理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
長谷部信行理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
前田 恵一理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
田崎 秀一理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
相澤 洋二理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
輪湖  博社会科学研究科地球社会論専攻・教授
山田 章一理工学研究科物理学及応用物理学専攻・助教授
中里 弘道理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
鷹野 正利理工学研究科物理学及応用物理学専攻・助教授
堤  正義理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
栗原  進理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
大場 一郎理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
大島 忠平理工学研究科ナノ理工学専攻・教授
上江洲由晃理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
寺崎 一郎理工学研究科物理学及応用物理学専攻・教授
勝藤 拓郎理工学研究科物理学及応用物理学専攻・助教授

(2003年10月23日掲載)