シリーズ・旅
| TOP PAGE  | シリーズ・旅   |

木下俊彦ニュースな旅
(2) インドネシア
商学部・商学研究科専任客員教授  木下俊彦

 インドネシア訪問には二つの目的があった。第1は、同国の政治経済状況の近況を把握するというアジア・ウオッチャーとしての仕事であり、第2は、海外貿易協会(経済産業省傘下の経済協力実施機関)が同国地場企業に派遣している日本技術者の成果評価を行う日本からのミッションを監督するという異質の仕事だった。

 まず、前者の方だが、今回は混迷する政治の方に力点を置いた。同国国会がワヒド大統領の仕事ぶりや汚職スキャンダルに対して、1回目の警告書を出した直後の訪問であり、これから同国の政治の流れがどうなるかが、最大の関心事項であった。同国は、アジア通貨危機で最大の犠牲を受け、危機的状況を続けているが、経済復興のイニシアティブをとることを期待されている大統領がすべての問題で国会と対決し、国会からそのパフォーマンスに警告書が出されるという事態は尋常とは言えない。まして、ワヒド大統領は、開発独裁の見本と言われたスハルト元大統領の辞任の後、副大統領から昇格したハビビ前大統領が信任投票で敗れ、辞任した後、民主選挙で選ばれた初めての大統領である。

 事実、ワヒド大統領、メガワティ副大統領が1999年10月に誕生したとき、内外の人々は大統領の政治手腕に大きな期待をかけたのである。盲目ゆえに「心眼」で何でも見えると豪語する同大統領は、同国最大のイスラム組織NUの指導者でありながら、宗教的差別を一切しない民主主義者であり、また、世界中どこにいっても、きれいな英語で、古今東西の知識を織り交ぜた当意即妙の演説を行い、聴衆を魅了する能力を持つ人間である。それを否定する人はまずいない。昨年央、日本経済新聞社の招待で来日して、帝国ホテルで大聴衆を前に演説をしたときにも、日本にもこういう政治家が欲しいと会場からため息が出たほどである。しかし、一級の評論家が大統領として優秀かどうかは別問題である。口の悪い大統領は、「私は目が悪い、メガワティ副大統領は頭が悪い」とか、「国会議員のIQは幼稚園並みだ」と発言するなど舌禍が絶えない上、予算、地方分権、経済復興など国家の命運を決める重要問題にまじめに取り組まず、ちゃらんぽらんな上、脈絡のない人事や決定を乱発したため、国民もあきれて、スハルト時代の方が良かったという人すら出てきた。

 株価や為替レートも下げ止まらない。一時は、大統領が象徴大統領になり、日常政治は副大統領に任せるという権力分担方式も出てきたが、結局、大統領がその案をつぶしてしまい、副大統領は立腹し、逃げ道はなくなった。インドネシアの各界で活躍している私の友人達も、もはや大統領は辞任、副大統領に昇格してもらうしかないと語っていた。(帰国後の)4月末には、国会から第2回目の警告書が出され、8月1日に大統領の弾劾の当否を審議する国民協議会の特別会が開催されることが決まった。

 ここにいたっても、大統領は、弾劾手続きは憲法違反であり、自分は、非常事態宣言を出して、国会や国民協議会を解散するぞなど国民を脅かしている。それに反対した「良識派」とされる治安担当の大物調整大臣バンバン・スシロ・ユドヨノ氏(国軍出身)は、6月1日解任され、内外に緊張が走った、しかし、大統領がどうあがいても、現職に長くとどまることは困難で、あとは、どうやって名誉ある撤退という形を取り繕うかだけの問題だろう。もはや、一刻の政治的空白も許されないと国民も考えている。

 さて、スペースの関係で、後者の話は圧縮しなければならないが、繊維や自動車部品関連工場などいくつかの工場点検をした結果、技術移転を期待されて同国の地場企業に短期間派遣される日本人技術者が、受け入れ企業の経営者やエンジニアから大変歓迎され、成果も上がっていることがよくわかった(ただ、成果をどういう基準で計測するかという問題はある)。一つの大きな問題は、日本人技術者と現地経営者や技術者との間に知識、経験の面で非常に大きな格差があるのが常で、それら技術者が滞在している間は所期の効果が上がるが、彼らがいなくなると製品の質や生産性がどんと落ちてしまうといった問題である。マニュアルを作ればいいと皆さんは考えるかもしれないし、海外貿易協会も、派遣技術者にそういう努力を要請している。それがなされているケースも見たが、生産・修理技術や世界の生産・販売システムなどの知識に大きな格差があり、顧客の要求もどんどん高度化していく状況の下では、マニュアルだけではTPOで柔軟に対応できないことは明らかであり、さらに工夫が必要だと感じた。

次号のサモアの話をお楽しみに。

(2001年6月14日掲載)

| TOP PAGE  | シリーズ・旅   |