ROBERTS, Glenda S.
◎一九八六年、コーネル大学大学院博士課程修了。Ph.D.(人類学)。ハワイ大学マノア校日本研究所、東京大学社会科学研究所を経て、九八年四月より現職。専門は社会・文化人類学。日本社会における労働とジェンダー問題、移民労働者・外国人労働者の社会的受け入れなどを研究テーマとする。
 「働く」を斬る!

仕事と育児を両立させる
 ―女性が働きやすい社会を目指して

グレンダ・ロバーツ 大学院アジア太平洋研究科教授

  日系多国籍製造業のナルセ(仮称)と、アメリカ系金融機関MNF(仮称)日本支部の協力を得て、両社で働く首都圏近郊在住の女性に聞き取り調査を行った。どちらも女性従業員が過半数を占め、仕事と生活のバランス促進を社訓に定めるなど、女性にとって魅力的な会社であるとの評判を聞いていたためである。

 調査の結果、双方とも女性社員は育児休業制度を活用しており、ナルセでは最長五年間の休業も可能であった(両社とも男性が育児休業制度を活用した例は見られなかった)。MNFの方が短期で復職する傾向があるが、二〇〇〇年の時点で、日本支部では事業部長の十四%、局長の二十九%と女性の登用が盛んであった。この数値は全国平均の九%(管理職に占める女性の割合、総務省労働力調査)をはるかに上回っている。

 育児休業を取った女性たちから、「権利を主張するだけではうまくいかない」という意見が多く聞かれた点は興味深かった。休暇前からチームの仲間との人間関係を築き、直前には十分な引き継ぎを行うこと。休暇中も様子をたずねるメールを出すなど、細やかな気遣いが、スムーズな職場復帰を可能にするという。

 一方で日本では、子どもを保育園に預けて夫婦が共働きした場合と、片親が仕事を辞めて育児に専念した場合とでは、税控除や保育園料などを差し引いた収支にそれほどの差がないというデータもある。そういう事情もあって、結婚や出産を機に退職してしまう女性はいまだに多い。しかし現状では、いったん家庭に入ってしまうと、正社員として再就職先を見つけることは容易ではない。仕事を通じ新しいチャレンジをしながら自己実現していく経験は、子育てと同様に得難いものであり、皆さんにはぜひ働き続けてほしいというのが個人的な思いだ。保育園などの費用は自分への投資と考えてはどうだろうか。

 男性も子育てを楽しみ、女性が出産後も仕事を続けることは当然の権利である。そのためには国の制度の拡充と、企業の取り組みが不可欠だが、個人レベルでは、十分なリサーチを行って、自分が働きやすい制度が整っている企業へ就職することが重要である。さらに、就職後も自分のスキルを磨き、会社に貢献し続けることで、周囲が必要な人材として認めてくれれば、前例などなくても会社を動かすことができるかもしれない。育児も仕事も楽しむことができる未来に向けて、社会は少しずつ変わってきている。私たちも、できることから始めてみよう。


女性有職者の約7割が、第1子出生と前後して退職しているが、いったん辞めてしまうと、思うような再就職先が得られない場合が多く、問題である。

(2006年9月30日掲載)




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First drafted 2006 Sep 30.