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この先生に聞きました
自分の思いを自らのことばで伝えたい。
コミュニケーションは 試行錯誤の繰り返し私たちは、ロビンソン・クルーソーのように孤島に一人でいるわけではない。自分を取り巻く社会の中で、自己以外の人間と関係を結びながら生きている。そのため、どうしてもコミュニケーションが必要である。 日本語教育に携わり、ことばとコミュニケーション、思考と表現をテーマとするオンデマンド講座「考えるための日本語」を担当している細川英雄先生は、「他者とのコミュニケーションにおいて、どうするのが一番良いのかという方法はありません。何度もトライ・アンド・エラーを繰り返してやっていくしかないのです」と語る。 そこがコミュニケーションの難しさであり、面白さでもある。コミュニケーション活動で重要なのは、「うまく伝える」というよりは、「この人と話してよかった」、「この人と人間的な関係ができてよかった」というところに結び付くことなのだという。それは、自分の思いを他者に向けて発信し、他者からの反応を確認し、何かを共有しているという手応えがあって、初めて実感し得ることだろう。 「相手と何をテーマに話すのか、ということをよく考えた方がいい。しっかりした人間関係の中に入っていくための、マニュアルや特別なテクニック、スキルなどはないのです。ぼそぼそ話そうとも、一回しか発言しなくとも、借り物でない、自分のことばで語る方が大切です」 インターアクションの 重要性では、自分のことばで内容のあることを語れるようになるには、どうすればいいのだろうか。 「それは、あるテーマに接した時に、感じたことを一度形にしたり、ことばにしてみることです。ことばにして発信すると、必ず他者からのリアクションがありますから、そのリアクションを受け止めて、もう一度考えてみる。そのようなとらえ直しをこまめにやっていくしかない。しぶとく何度も何度も繰り返していくことです」 こうした他者との相互的なやりとりを「インターアクション」と呼ぶ。そのことによって、自分が最初に抱いた考え方や感じ方が次第に変わってくるという。すると、自分がそのように考える理由もはっきりしてくる。そして、自分の考えていることの枠組みが明確になると、「私はこう考えるんだけど、あなたはどう考えますか」というような議論ができるようになる。 「自分の考えていることは誰にとってもはじめから明確であるわけではありません。他者とのやり取り、つまりインターアクションの過程で次第にはっきり見えるようになるんです」 「なぜ」と問いかけてみる「インターアクションで一番大事なことは、他者の立場を認めつつ、こちらの意見もきっちり述べるということです。お互いに対等な関係であるということを自覚し合い、そこから何が始まるかということだと思いますね」と細川先生は語る。 そのためには、「なぜ」という問いが重要なのだという。なぜなら、その問いを繰り返して、いろいろな人とインターアクションをしていくうちに、自分の思考が深まり、表現化され、血となり肉となっていくからだ。 「例えば、アメリカ人だから、女だから、教師だから、といったイメージは、顔の見える関係をつくりにくくします。そうしたイメージを持つことで、いつの間にか話題も限定され、表面的な浅い話になってしまうことがよくありますね」 さらに、議論をする上で注意しなければならないことは、一般論をそのまま鵜呑みにしない、自分の体験を過信しないことだ。例えば「ブラジル人はサンバが好きか」という話題に出てくるブラジル人というのは一体誰のことなのだろうか。隣のアパートのブラジル人なのか、旅先で出会ったブラジル人のことなのか。そう考えていくと、ブラジル人を一般化すること自体に実は問題があるということに気付くはずである。 体験の場合は、自分が身をもって経験したことだから、事実だと信じ込んでしまって、批判的に考え直すことができなくなってしまう問題がある。 「情報と体験にがんじがらめになっていると、本当の自分は発見できません。情報と体験を乗り越えるために必要なのが『なぜ』という問いで、その問いによって現在の自分の世界を少しずつ更新することが可能になります」 自分の問題としてとらえるもう一つ、重要なことがある。それは「自分の問題としてテーマをとらえる」こと。この問題意識を持ち続けるには、次のようなことが大事だと細川先生は言う。 「純粋に、自分にとっての興味・関心のありかを探ること。そこが原点だと思います。自分のしたいこと、やりたいこと。それを大事にすればいいのです。ただ、そこで留まったままだと、自分自身を掘り下げていくことにはならないので、なぜ私はこれが好きなのか、なぜこれが私にとって心地良いのだろうか、あるいは心地良くないのだろうか、ということを徹底的に自分の問題として自分自身に問いかけていくことが大切です」 コミュニケーションは決して容易ではない。だが、これまで述べてきたように、さまざまなインターアクションを通じて、自分の思考を明確化し表現化することで、自分の思いを自らのことばで語り、伝えることができるようになるはずである。
(2005年10月29日掲載) |
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