細川 英雄 大学院日本語教育研究科教授
大学院日本語教育研究科教授
細川 英雄
(ほそかわ・ひでお)
 大学院日本語教育研究科教授。専門は言語文化教育論、日本語教育。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。大学院教育学研究科にて博士学位(教育学)を取得。信州大学、金沢大学、早稲田大学日本語研究教育センターを経て現職。NPO法人言語文化教育研究所代表。主な著書は『日本語教育は何をめざすか』(明石書店)、『ことばと文化を結ぶ日本語教育』(凡人社)など多数。
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[表 現 力]
自分の思いを 伝えるには どうすればいいの?

この先生に聞きました
細川 英雄  大学院日本語教育研究科教授

自分の思いを自らのことばで伝えたい。
誰しもそんな願望をもっている。
一方で、自分の言いたいことが 相手に全く通じなかった経験も 誰にでも一度はあるだろう。
自分の思いを伝え、 人間的な関係を取り結ぶことのできる コミュニケーションを行うには どうすればいいのだろうか。

「インターアクション」で思考を表現化しよう
言語文化教育研究室(細川先生の研究室)のWebサイト
言語文化教育研究室(細川先生の研究室)のWebサイト。研究室では学生一人ひとりが自分にとっての言語教育とは何かを考え、それぞれの実践の場をつくりだそうと取り組んでいる。研究室のドアはいつもオープンで、出入り自由。
【URL】http://www.f.waseda.jp/hosokawa/
NPO法人言語文化教育研究所のWebサイト
「考えるための日本語」の活動を、大学から地域・社会へ発信するための拠点として設立されたNPO法人言語文化教育研究所のWebサイト。言語活動による自文化・他文化の問い直しの教育を目指している
【URL】http://www.gbki.org/
オンデマンド講座「考えるための日本語」の広報版ムービー画面1
オンデマンド講座「考えるための日本語」の広報版ムービー画面2
オンデマンド講座「考えるための日本語」の広報版ムービー画面。この講座では、日本語という言語を通して問題を発見・解決する「ことばの力」とは何かを考えていく。毎週、BBS上で受講生の活発なやりとりが繰り返されており、細川先生は「将来への可能性が潜んでいる」と語る。

コミュニケーションは 試行錯誤の繰り返し

 私たちは、ロビンソン・クルーソーのように孤島に一人でいるわけではない。自分を取り巻く社会の中で、自己以外の人間と関係を結びながら生きている。そのため、どうしてもコミュニケーションが必要である。

 日本語教育に携わり、ことばとコミュニケーション、思考と表現をテーマとするオンデマンド講座「考えるための日本語」を担当している細川英雄先生は、「他者とのコミュニケーションにおいて、どうするのが一番良いのかという方法はありません。何度もトライ・アンド・エラーを繰り返してやっていくしかないのです」と語る。

 そこがコミュニケーションの難しさであり、面白さでもある。コミュニケーション活動で重要なのは、「うまく伝える」というよりは、「この人と話してよかった」、「この人と人間的な関係ができてよかった」というところに結び付くことなのだという。それは、自分の思いを他者に向けて発信し、他者からの反応を確認し、何かを共有しているという手応えがあって、初めて実感し得ることだろう。

「相手と何をテーマに話すのか、ということをよく考えた方がいい。しっかりした人間関係の中に入っていくための、マニュアルや特別なテクニック、スキルなどはないのです。ぼそぼそ話そうとも、一回しか発言しなくとも、借り物でない、自分のことばで語る方が大切です」

インターアクションの 重要性

 では、自分のことばで内容のあることを語れるようになるには、どうすればいいのだろうか。

「それは、あるテーマに接した時に、感じたことを一度形にしたり、ことばにしてみることです。ことばにして発信すると、必ず他者からのリアクションがありますから、そのリアクションを受け止めて、もう一度考えてみる。そのようなとらえ直しをこまめにやっていくしかない。しぶとく何度も何度も繰り返していくことです」

 こうした他者との相互的なやりとりを「インターアクション」と呼ぶ。そのことによって、自分が最初に抱いた考え方や感じ方が次第に変わってくるという。すると、自分がそのように考える理由もはっきりしてくる。そして、自分の考えていることの枠組みが明確になると、「私はこう考えるんだけど、あなたはどう考えますか」というような議論ができるようになる。

「自分の考えていることは誰にとってもはじめから明確であるわけではありません。他者とのやり取り、つまりインターアクションの過程で次第にはっきり見えるようになるんです」

「なぜ」と問いかけてみる

 「インターアクションで一番大事なことは、他者の立場を認めつつ、こちらの意見もきっちり述べるということです。お互いに対等な関係であるということを自覚し合い、そこから何が始まるかということだと思いますね」と細川先生は語る。

 そのためには、「なぜ」という問いが重要なのだという。なぜなら、その問いを繰り返して、いろいろな人とインターアクションをしていくうちに、自分の思考が深まり、表現化され、血となり肉となっていくからだ。

 「例えば、アメリカ人だから、女だから、教師だから、といったイメージは、顔の見える関係をつくりにくくします。そうしたイメージを持つことで、いつの間にか話題も限定され、表面的な浅い話になってしまうことがよくありますね」

 さらに、議論をする上で注意しなければならないことは、一般論をそのまま鵜呑みにしない、自分の体験を過信しないことだ。例えば「ブラジル人はサンバが好きか」という話題に出てくるブラジル人というのは一体誰のことなのだろうか。隣のアパートのブラジル人なのか、旅先で出会ったブラジル人のことなのか。そう考えていくと、ブラジル人を一般化すること自体に実は問題があるということに気付くはずである。

 体験の場合は、自分が身をもって経験したことだから、事実だと信じ込んでしまって、批判的に考え直すことができなくなってしまう問題がある。

 「情報と体験にがんじがらめになっていると、本当の自分は発見できません。情報と体験を乗り越えるために必要なのが『なぜ』という問いで、その問いによって現在の自分の世界を少しずつ更新することが可能になります」

自分の問題としてとらえる

 もう一つ、重要なことがある。それは「自分の問題としてテーマをとらえる」こと。この問題意識を持ち続けるには、次のようなことが大事だと細川先生は言う。

「純粋に、自分にとっての興味・関心のありかを探ること。そこが原点だと思います。自分のしたいこと、やりたいこと。それを大事にすればいいのです。ただ、そこで留まったままだと、自分自身を掘り下げていくことにはならないので、なぜ私はこれが好きなのか、なぜこれが私にとって心地良いのだろうか、あるいは心地良くないのだろうか、ということを徹底的に自分の問題として自分自身に問いかけていくことが大切です」

 コミュニケーションは決して容易ではない。だが、これまで述べてきたように、さまざまなインターアクションを通じて、自分の思考を明確化し表現化することで、自分の思いを自らのことばで語り、伝えることができるようになるはずである。

Extra Bits 〜もっと知りたい知識のヒント〜

言語教育における 「ことば」と「文化」の統合

 細川先生の研究テーマは、言語教育における「ことば」と「文化」の統合で、言語文化教育の実践を目指している。

 日本語教育に携わるようになり、教室活動ということを考えるようになって、ことばを教えるのは「言語の形」を教えることではないと気付いたという。

 「ことばの教室で学生自身が自分のことばを作っていく。それに立ち合うというような気持ちになってきて、『言語』ではなく、『言語活動』を研究したいと考えるようになりました。そのためには、言語活動それ自体の中に入っていかないといけません」

 細川先生の考える「ことばの教室」とは、ことばによるコミュニケーション活動能力を育成するための場であり、また、個人と社会の関係を相対化する言語活動の場でもある。その実践こそが「考えるための日本語」であり、言語活動による自文化・他文化の問い直しでもあるという。

 そのようなことばの活動は、第一言語としてであれ、第二言語としてであれ、人間としての「生きる力」につながる普遍的な論理と思考、自分の考えを伝える表現力を培う。それはまさに、ことばと文化、思考を結ぶ人間としてのコミュニケーションの活性化であろう。

 細川先生の目指すところは、「ことばの力」による自己の獲得と解放であり、他者との共生の回復といえるかもしれない。

Book Review
 ―コミュニケーションを知るために

わたしを語ることばを求めて―表現することへの希望
牲川波都季・細川英雄 著/ 三省堂
 十四人の高校生が挑んだ「わたしのことば」獲得のドキュメント。自分のことばで表現するための教室活動の理論を示し、そこから生み出された高校での実験授業の試みを記したもの。高校生、大学生におすすめ。

考えるための日本語
細川英雄・言語文化教育研究所 著/ 三省堂
 他者とのコミュニケーションによって自己を表現する力を付けるためには、日本語による「聞く・話す・読む・書く」という総合的な身体活動としての言語活動が必要となる。本書は問題を発見・解決するための総合活動型日本語教育のすすめ。

日本語教育と日本事情―異文化を超える
細川英雄 著/明石書店
「外国人のための『日本事情』とは何か」という問題を出発点として、第二言語としての日本語教育の新しい方向性を提示する。それはことばによる文化の教育であり、「個の文化」体得によって「異文化を超える」視点を目指すものである。

Message ―学生生活を充実させるために

好きなことを何でもしよう!
 「学生時代にいろいろなことをやった方がいいですよ。寄り道だとか遠回りだとかそんなふうに考えないで、何でもいいから自分の好きなことを十分やった方がいい。その上で、自分の興味・関心への『なぜ』を持ち、自分のことばで考え、発信することです」
 限られた期間の学生時代を実りあるものにするための秘訣は、思う存分、好きなことをすること。四年間はあっという間だ。さあ、トライ・アンド・エラーのコミュニケーションだ。

(2005年10月29日掲載)




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First drafted 2005 October 29.